中村桂子のちょっと一言
2026.10.01
「生命誌」再考――内からの眼
ここは、タイトルが示すように日常ふと思うことを書くところですが、今日は「生命誌とは何か」という基本を書きたくなりました。「AIで人間が滅ぶ」などと言われる中で、本当に人間らしく生きるための知としての「生命誌」を改めて考えなければならないと思うからです。
「生命誌」と言えば「生命誌絵巻」で表現される内容としてきました。研究館で行う具体的研究は、この中にある課題です。けれども「生命誌」は、「自然の中にある生きものとして私たちの生き方につながる知」として考えてきました。それを明確にした形で描いた図を見ながら以下を読んで下さい。

(この図は 「生命誌の今とこれから」という題なのですが、学会で話すために変更してあります。具体的内容はこうなります。)
17世紀の科学革命に始まり産業革命へとつながった「科学」は、機械論です。その主体は物理学と化学であり、その成果を技術につなげ、近代文明をつくってきました。
20世紀初め、相対性理論・量子論が生まれ、物理学者が彼らにとって不思議な存在である生命体に関心をもちます。機械論ではない「科学」の始まりです。ところが、ここから生まれた分子生物学は、DNAの二重らせん構造の発見という見事な成果に始まり、「分子の機械として生物を見る学問」として進歩することになったのです。その成果は見事です。
でも、生きものが機械ではないことを忘れてはいけません。分子生物学の成果を踏まえて、もう一度生きものとは何かを考え、「生命体の特徴は情報をもつことである」という視点に気づきました。物理学は、物質とエネルギーの世界です。生命体は、物質・エネルギー・情報で動いています。情報という概念が生命と共に生まれたのです。そこで今、私たちは「情報の生命誌」を始めました(季刊誌を見て下さい)。
宇宙論のS・ホーキングが亡くなる直前にこう言っています。「考えが変わった。『ホーキング、宇宙を語る』は視点が間違っていた」と。神の視点で宇宙を外から見ていたが、自分は宇宙の一部なのだから、中から見る視点が必要だと言うのです。こうして生まれた新しい宇宙論は、起源・進化・観測行為を中核概念とします。「宇宙誌」です。そこには「私たちのいる宇宙の特徴は、生き物に優しいこと」という言葉があります。
ここにあるのは、「内からの眼」です。科学は自然を外からの眼で見てきたけれど、私たちは人間であり、自然の一つとして中にいるのですから「内からの眼」が、私たちが自然を見る本来の眼なのです。
地球の研究も、プレートテクトニクスを基本に46億年の歴史の研究が急速に進んでいます。小惑星を含めての他の惑星との関係も含め、まさに地球誌が描かれています。
138億年前に始まる宇宙誌は地球誌へ繋がり、そこに生まれた生きものを知る生物誌へと繋がっていきます。さらには人間誌へと繋がり、そこには政治・経済・文化など、すべての活動が入ります。ここでは人文・社会・自然科学という分類には意味がありません。
すべての現象を誌(history)として見ていくことにより、人間がその歴史の中を自然の一員として歩む過程はすべてその中に入ります。そこで、宇宙誌に始まり、人間の活動全てを「生命」を基本に捉える知を「生命誌」と呼びたいと思います(基本は生きもの研究であることに変わりはありません)。
これまではこの図での「生物誌」を「生命誌」としてきましたが、この35年間の科学と社会の変化を踏まえての、生命誌の今です。
(AIの時代と言われる中で、人間とは何かを考えるにはこのような知が必要と思います)
「生命誌」と言えば「生命誌絵巻」で表現される内容としてきました。研究館で行う具体的研究は、この中にある課題です。けれども「生命誌」は、「自然の中にある生きものとして私たちの生き方につながる知」として考えてきました。それを明確にした形で描いた図を見ながら以下を読んで下さい。

(この図は 「生命誌の今とこれから」という題なのですが、学会で話すために変更してあります。具体的内容はこうなります。)
17世紀の科学革命に始まり産業革命へとつながった「科学」は、機械論です。その主体は物理学と化学であり、その成果を技術につなげ、近代文明をつくってきました。
20世紀初め、相対性理論・量子論が生まれ、物理学者が彼らにとって不思議な存在である生命体に関心をもちます。機械論ではない「科学」の始まりです。ところが、ここから生まれた分子生物学は、DNAの二重らせん構造の発見という見事な成果に始まり、「分子の機械として生物を見る学問」として進歩することになったのです。その成果は見事です。
でも、生きものが機械ではないことを忘れてはいけません。分子生物学の成果を踏まえて、もう一度生きものとは何かを考え、「生命体の特徴は情報をもつことである」という視点に気づきました。物理学は、物質とエネルギーの世界です。生命体は、物質・エネルギー・情報で動いています。情報という概念が生命と共に生まれたのです。そこで今、私たちは「情報の生命誌」を始めました(季刊誌を見て下さい)。
宇宙論のS・ホーキングが亡くなる直前にこう言っています。「考えが変わった。『ホーキング、宇宙を語る』は視点が間違っていた」と。神の視点で宇宙を外から見ていたが、自分は宇宙の一部なのだから、中から見る視点が必要だと言うのです。こうして生まれた新しい宇宙論は、起源・進化・観測行為を中核概念とします。「宇宙誌」です。そこには「私たちのいる宇宙の特徴は、生き物に優しいこと」という言葉があります。
ここにあるのは、「内からの眼」です。科学は自然を外からの眼で見てきたけれど、私たちは人間であり、自然の一つとして中にいるのですから「内からの眼」が、私たちが自然を見る本来の眼なのです。
地球の研究も、プレートテクトニクスを基本に46億年の歴史の研究が急速に進んでいます。小惑星を含めての他の惑星との関係も含め、まさに地球誌が描かれています。
138億年前に始まる宇宙誌は地球誌へ繋がり、そこに生まれた生きものを知る生物誌へと繋がっていきます。さらには人間誌へと繋がり、そこには政治・経済・文化など、すべての活動が入ります。ここでは人文・社会・自然科学という分類には意味がありません。
すべての現象を誌(history)として見ていくことにより、人間がその歴史の中を自然の一員として歩む過程はすべてその中に入ります。そこで、宇宙誌に始まり、人間の活動全てを「生命」を基本に捉える知を「生命誌」と呼びたいと思います(基本は生きもの研究であることに変わりはありません)。
これまではこの図での「生物誌」を「生命誌」としてきましたが、この35年間の科学と社会の変化を踏まえての、生命誌の今です。
(AIの時代と言われる中で、人間とは何かを考えるにはこのような知が必要と思います)


中村桂子 (名誉館長)
名誉館長よりご挨拶