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研究館より

ラボ日記

2020.04.01

蝶の天気予報

 新型コロナウイルスの感染拡大が心配される最中ではありますが、JT医薬総合研究所敷地内の桜も咲き始めたし、春めいた日が増えてきて、虫たちが飛び回る姿を見かけるようになってきました。そろそろ研究材料を確保するため、昆虫採集に出かけなくてはならない時期の到来です。

 当研究室で研究に使っているアゲハチョウは主に、JT生命誌研究館周辺の住宅街で採集したナミアゲハです。近隣の皆様はいつもお騒がせしておりますが、これからもよろしくお願いいたします。毎年夏場は毎日のように採集に出かけていて、中村名誉館長には「夏休みの小学生みたいですね。」と声をかけて頂いたこともありました。採集に出かけるという行動パターンのことでなのか、半袖・短パン・麦わら帽子・捕虫網という服装のことなのか、真意は定かではありません。とはいえ、実際に夏休み期間中は、採集場所周辺の小学生から仲間気分で頻繁に声をかけて頂くのも事実です。「おっちゃん、何しとん?」と声をかけてくれる好奇心旺盛な子供さんには、未来を背負う科学者を育成するべくアゲハチョウを使った研究の魅力を全力で説明するマン・ツー・マン特別講義を行うのですが、興味の対象がそこではないことがほとんどです。無情也。

 高槻市は地形の影響なのか、天候が変わりやすい場所でもあります。俗に言う「ゲリラ雷雨」が頻繁にあり、多い年は毎日のように発生します。昆虫採集などの屋外での“仕事”(そう、網を振って遊んでいるのではありません!)をしていると、突然の豪雨に遭うと大変です。最近ではスマートフォン向けの天気サービスで、雨雲などの接近を通知してくれるサービスがあり、最も信頼できると思っている会社のサービスを便利に使っています。しかし、その通知がなかったとしても、チョウがパタッと捕れなくなったら館に帰るというのは、大切なのではないかと感じています。
 いつも不思議に思うのですが、晴れていて風もそんなに強くなく、採集に適していそうと感じる天気の時でも、ある瞬間に突然チョウを見かけなくなることがあるんです。変だな〜と思っていると雨雲の接近を知らせる通知があり、それじゃあそろそろ帰ろうか、と判断することがあります。実際、その後しばらくすると雨が降り出したという経験も沢山あります。科学的な根拠は何もないのですが、チョウ達は雨の接近を感じて隠れているのではないかと思えてなりません。

 さて、まだ未解明の何らかの方法でチョウ達は正確に雨が降ることを予知しているのか、それともただの思い違いなのか、あるいは膨大な屋外作業の経験から雨の接近を予測しているのは僕自身であってチョウとは無関係なのか。いつの日か謎が解けたらいいなと思います。

アゲハチョウを研究材料として、様々な生き物がどのように関わり合いながら「生きている」のか、分子の言葉で理解しようとしています。