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研究館より

ラボ日記

2021.09.01

プラナリアの研究

カエルの神経堤細胞の研究から「細胞周期と分化・未分化の関係性」に漠然と気づきました。端的に言えば「細胞周期が回っている細胞は分化ができず、分化するためには細胞周期を止めなければならない」となります。このことを証明しようと長い間カエルで研究を進めてきましたが、如何せんカエルのように複雑な生き物では、様々な時期に至る場所で細胞分裂も分化も起こります。だから、特定の現象に着目して細胞周期を人為的にいじった時に全く異なるところにも異常が生じることもしばしばであり、ひどい時には着目している現象が起こるはるか前の卵割で異常がおこって卵が死ぬという目にも合いました。苦闘の末に出会ったのがプラナリアです。プラナリアでは全能性の幹細胞のみが分裂をして、分化した細胞はもはや分裂をすることなくそのまま寿命を迎えて死んでいきます。だから、見た目は普通のプラナリアがずっと生きているように見えても、実は数週間単位で全ての細胞は新しくなっているということです。この、プラナリアの性質は私の仮説を証明するためには好都合の生き物でした。思っていたことのほぼ全てはプラナリアで証明できたと思っていますので、ここからあらためて脊椎動物などに戻ることもできるかもしれません。

さて、プラナリアを研究室に導入したきっかけは上に書いた通りなのですが、プラナリアを毎日観察していると様々な面白い現象に出逢います。そこから遊びでいろんな実験をしてみたくなります。面白い現象の一つが自切です。ある程度大きくなるとプラナリアは自らの体を切ることで個体の数を増やします。これを自切と呼びます。いろいろと遊んでいるうちに、ある遺伝子が自切や再生の時にかなり不思議な振る舞いをすることが見えてきました。いくつかの予備実験を行ない、この遺伝子が、自切の頻度を決めているメカニズムにとってかなり重要なことを行なっているのではないかと考えて現在研究を始めようとしています。

その前に知っておかなくてはならないことがあります。それはプラナリアが自切しやすい(しにくい)環境条件です。この条件で飼育すればめったに自切しないが、別の条件で飼育すれば容易に自切が起きるという飼育条件を見つける必要があります。自切が始まるまでどのプラナリアが自切を起こすのかわかりませんが、たとえば、自切しにくい条件で一定時間飼育したのち、自切が起こりやすい条件に移したら数時間以内に自切が起きるという条件がわかれば、数時間以内に自切するプラナリアの集団を得ることができるというわけです。実際に行なう実験は、飼育密度・明暗・給餌頻度・温度などを変えながら自切の頻度をただただ観察するという時間と忍耐を要する実験ですが、京都の高校生達と一緒に観察を行なっており、「へえ、おもしろいなあ」という結果も出てきています。他にも、再生途中にひとつ目(単眼)になったりする現象も見つけていますし、日本産とヨーロッパ産のプラナリアでは体の全体のバランスを決める機構が何だか違うように感じられるというふうにも見えて、少し観察してみようかとも思っています。プラナリアを飼育しているだけで面白いことはたくさんあることに今更ながら感心しています。

橋本主税 (室長)

所属: 形態形成研究室