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研究館より

ラボ日記

2021.09.15

思いがけない気づき

研究をしていて、新しいことを見つけた!と思うことがありますが、自分が知らなかっただけというオチになることも多いです。先日、アゲハチョウ成虫の前脚を使った電気生理実験をしていて、そんな出来事がありました。

電気生理実験というのは、神経を流れている微弱な電気を計測する実験方法で、とても長い歴史があります。当研究室では、味覚組織を化学物質で刺激して、神経細胞の活動を調べることで食草を選ぶ時の“味見”の仕組みについて理解を深めようとしています。

アゲハチョウは食草を選ぶ時の産卵行動についてよく研究されていて、産卵刺激物質や産卵忌避物質とされる化合物がたくさん報告されています。そういった化合物を使って電気生理実験を行っていたら、「え?この物質に応答するの?」という結果を観察しました。

自分では新しいことを見つけた!と思っても、文献を探してみると既に過去に誰かが行っていたというものもよくあります。今回の「意外な物質」についても論文を検索してみたら、やはりありました。1990年代に行われていた研究です。

この論文、僕が生命誌研究館に就職してすぐくらいに読んでいたはずなんですけど、ほとんど記憶にありませんでした。おそらく、まだ僕の知識が浅かったためか若さゆえの過ちか、その時はその結果を重要なものだとは認識できていなかったんですね。
いや、実際、ある程度研究が進んだからそれを調べる必要性が生じたわけで、時間が経過したことによって重要性が変化したといった方がいいかもしれません。

研究というのは、先人たちが積み上げてくださった様々な知識があって成り立っているもので、自分が発見した新事実も、山のように積み上がった先人の努力の上にちょこんと追加する程度のものなんだなと改めて実感しました。

学生時代の恩師がおっしゃっていたのですが、「初心はどんどん忘れた方がいい。知識と経験が増えた分、考えが変わるのは当然だ。」というのは、今風に言えば「知識のアップデート」ということではないかと思っています。研究者なら最新の情報や知識を吸収し続けるのは当然ですが、過去に読んだ論文についても、読み返してみると思いがけない新しい気づきに出会えるかもしれません。知識や経験が増えた分、理解の仕方も変わっている可能性がありますので。

アゲハチョウを研究材料として、様々な生き物がどのように関わり合いながら「生きている」のか、分子の言葉で理解しようとしています。