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研究館より

ラボ日記

2023.09.01

幹細胞ニッチとイワナガヒメ

細胞周期が止まると細胞は分化すると私たちは考えています。したがって、幹細胞が幹細胞である所以として、細胞周期が継続している必要があります。細胞周期が止まると異なる種類の細胞へと分化が起こり幹細胞として存在できないからです。では、どのような機構で分化と増殖の切り替えがなされているのでしょう。

私たちは、「幹細胞ニッチ」と呼ばれる「幹細胞の基地」のような場所の存在を考えています。端的に言えば、幹細胞ニッチと物理的に接している幹細胞は幹細胞としての性質を維持し、幹細胞ニッチから物理的に離れたら分化方向へと舵を切るという考えです。

プラナリアの幹細胞はギャップ結合を介して幹細胞ニッチと連絡しているのではないかと考え、ギャップ結合を構成するタンパク質の合成を阻害してみました。すると、予想(期待)通り、まず幹細胞の数が減っていき、次に分化細胞の数も減少しました。これはX線で幹細胞を死滅させた時の表現型に似ています。これは幹細胞ニッチが存在する可能性を支持する結果です。

話は変わって、アマテラスオオミカミの孫に当たるニニギノミコトが地上に降り立った時(天孫降臨)の話です。ニニギノミコトは初めて出会った女性に一目惚れしました。その女性の名前はコノハナノサクヤヒメといい、山の神(国つ神)の娘です。国つ神とは地上を治める神を指します。この姫は、ニニギノミコトがひと目見て即座に求婚したくらいに美しかったそうです。姫は父親である山の神に相談しました。山の神は、天つ神(天上界にいる神)と縁続きになれることを喜びました。ただ、コノハナサクヤヒメのお姉さんも一緒に結婚させることを条件にしました。コノハナサクヤヒメ連れてきたお姉さん(イワナガヒメ)を一目見たニニギノミコトは、あまりの醜さにイワナガヒメだけを追い返しました(古事記には、現在ではコンプライアンスにまともに引っかかりそうな記載があちこちに見られます)。実はこの二人の姫には強い力がありました。コノハナサクヤヒメは天皇家(ニニギノミコトは神武天皇の曽祖父)が今後も繁栄を遂げることを約束し、イワナガヒメは永遠の命を約束します。栄華を誇る天皇家にも寿命ができたのは、イワナガヒメを追い返した結果だということです。

プラナリアでは、幹細胞には寿命がなく、分化した細胞には寿命があります。幹細胞ニッチと一緒にいるときには永遠の命が担保されていて、幹細胞ニッチから離れたら細胞にも寿命ができると考えたとき、幹細胞ニッチにイワナガヒメの姿を見るような気がします。
 

橋本主税 (室長)

所属: 形態形成研究室