ラボ日記
2025.12.16
ゲノムのパワー
ゲノムシーケンシングが進み、情報が急拡大している。今日時点でNCBI (National Center for Biotechnology Information) に登録されたゲノム配列の数は322万種類、多細胞動物だけで23,537種類ある。主な内訳は以下の通りである。
脊椎動物 11,314
節足動物 9,412
昆虫類 8,482
甲殻類 289
鋏角類 374
クモ類 101
棘皮動物 159
軟体動物 665
環形動物 188
刺胞動物 467
これらの情報は、以下のページで簡単に検索できる。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/datasets/genome/
ゲノムの情報は生き物が世代を重ねて引き継いできた情報であり、生き物の進化の過程や仕組みを理解するための研究において有用である。しかし、拡大するこの膨大な情報を如何に活用してストーリーを紡ぎ出し、知識とできるかは大きな課題である。
ひとつ、最近のゲノム解析研究で驚いたことがある。多細胞動物の中で、系統が離れていても、生物種を選べば、種間で互いの染色体が関連づけられることが分かってきたことである。この発見は、Simakov et al. (2022, Science Advances 8; https://www.science.org/doi/full/10.1126/sciadv.abi5884) の論文で報告されているのだが、ナメクジウオ (Branchiostoma floridae), ホタテガイ (Patinopecten yessoensis), ヒドラ (Hydra vulgaris), ビゼンクラゲ (Rhopilema esculentum), ミュラーカイメン (Ephydatia muelleri) の染色体が比較的シンプルに整理された形で関連づけられている。生物種間でどの染色体とどの染色体が相同かが明確に示され、互いの間でどのような変化があったかも示されている。このような結果が実際に得られるということは、生物種によっては、ゲノムの構成が深い共通祖先の状態からあまり大きく変わっていないことを意味している。同じ論文の中に、無脊椎動物のモデル生物としてよく使われてきたキイロショウジョウバエやC.エレガンス(線虫)、カタユウレイボヤなどの解析結果も示されている。これらのゲノムは祖先状態から複雑な変化の変遷を経てきたようである。
祖先的ゲノムが見えてきていることは多細胞動物の進化研究の大きな進展である。祖先が見えてくると、どのような変化が派生状態を生んだかが見やすくなり、生き物の多様化への理解がふくらむ。ゲノムのパワーを信じた研究の方向性が促進されることを望む。
脊椎動物 11,314
節足動物 9,412
昆虫類 8,482
甲殻類 289
鋏角類 374
クモ類 101
棘皮動物 159
軟体動物 665
環形動物 188
刺胞動物 467
これらの情報は、以下のページで簡単に検索できる。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/datasets/genome/
ゲノムの情報は生き物が世代を重ねて引き継いできた情報であり、生き物の進化の過程や仕組みを理解するための研究において有用である。しかし、拡大するこの膨大な情報を如何に活用してストーリーを紡ぎ出し、知識とできるかは大きな課題である。
ひとつ、最近のゲノム解析研究で驚いたことがある。多細胞動物の中で、系統が離れていても、生物種を選べば、種間で互いの染色体が関連づけられることが分かってきたことである。この発見は、Simakov et al. (2022, Science Advances 8; https://www.science.org/doi/full/10.1126/sciadv.abi5884) の論文で報告されているのだが、ナメクジウオ (Branchiostoma floridae), ホタテガイ (Patinopecten yessoensis), ヒドラ (Hydra vulgaris), ビゼンクラゲ (Rhopilema esculentum), ミュラーカイメン (Ephydatia muelleri) の染色体が比較的シンプルに整理された形で関連づけられている。生物種間でどの染色体とどの染色体が相同かが明確に示され、互いの間でどのような変化があったかも示されている。このような結果が実際に得られるということは、生物種によっては、ゲノムの構成が深い共通祖先の状態からあまり大きく変わっていないことを意味している。同じ論文の中に、無脊椎動物のモデル生物としてよく使われてきたキイロショウジョウバエやC.エレガンス(線虫)、カタユウレイボヤなどの解析結果も示されている。これらのゲノムは祖先状態から複雑な変化の変遷を経てきたようである。
祖先的ゲノムが見えてきていることは多細胞動物の進化研究の大きな進展である。祖先が見えてくると、どのような変化が派生状態を生んだかが見やすくなり、生き物の多様化への理解がふくらむ。ゲノムのパワーを信じた研究の方向性が促進されることを望む。
小田広樹 (室長)
所属: 細胞・発生・進化研究室
動物多様化の背景にある細胞システムの進化に興味を持っています。1) 形態形成に重要な役割を果たす細胞間接着構造(アドヘレンスジャンクション)に関わる進化の研究と、2) クモ胚をモデルとした調節的発生メカニズムの研究を行っています。