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研究館より

ラボ日記

2026.10.01

空に輝く集団を眺めて

高槻に来てから早くも二度目の夏が過ぎ去りました。昨年は存在を知らずに見逃してしまった高槻ジャズストリートや水都くらわんか花火大会を、今年は存分に楽しむことができました。

なかでも特に印象に残ったのが、水都くらわんか花火大会で花火に先立って行われたドローンショーです。千機を超えるドローンが夜空に整然と並び、さまざまな映像や模様を描き出す様子は圧巻でした。

「あれほど多くのドローンを、どのようにして正確に制御しているのだろう」と興味を持って調べてみると、各ドローンはGPSなどを利用して自らの位置を把握し、あらかじめ作成された飛行計画や中央システムからの指示に従って飛行していることがわかりました。多数の機体を同時に制御するためには複雑な計算や通信が必要であり、大規模なドローンショーの実現には高度な技術が用いられています。

この光景を見ていて思い出したのが、多細胞生物の体づくり、すなわち発生の過程です。発生では、細胞が移動しながら適切な位置へ配置されたり、異なる種類の細胞へと分化したりすることで、最終的に一つの複雑な生物の体が形づくられます。ドローンショーにおける機体の移動は細胞移動を連想させますし、それぞれのドローンが異なる役割を担いながら全体として一つの図柄を作り上げる様子は、細胞が異なる運命へ分化して組織や器官を形成する過程になぞらえて考えることができるかもしれません。

一方で、両者には重要な違いもあります。ドローンショーでは中央のシステムが全体を管理していますが、生物の発生にはそのような「司令塔」は存在しません。個々の細胞は周囲の細胞や環境からのシグナルを受け取り、それぞれが応答することで集団として秩序ある行動を実現しています。

興味深いことに、個々の細胞は、多くの場合、周囲から届く比較的局所的なシグナルに応答して行動を決めています。そして、そのような局所的な情報のやり取りが積み重なることで、生物は膨大な数の細胞を協調させ、精巧な体の構造を作り上げています。人間の体は数十兆個もの細胞から成り立っていますが、その形成を一つの中央管理システムが直接指揮しているわけではありません。

全体を見渡して指示を出す存在がいなくても、個々の細胞同士の相互作用から秩序だった構造が生み出される。このような仕組みは「自己組織化」と呼ばれ、発生生物学の重要な研究テーマの一つです。最新の研究ではドローン制御システムにおいても個々の機械が周囲の状況を判断しながら協調的に行動する、自己組織化様式を組み込んだ技術が発展してきています。将来、ドローンの集団制御技術がさらに発展すれば、生物の細胞集団に似た分散的な制御によって、これまでにない規模や表現力を持つドローンショーが実現するかもしれません。

夜空いっぱいに広がるドローンの光景は、最先端の工学技術の成果であると同時に、生物が長い進化の過程で獲得してきた巧妙な「集団制御のしくみ」を考えるきっかけにもなりました。ドローンショーを目にする機会があれば、ぜひその美しさだけでなく、多くの要素が協調して一つの形を生み出す仕組みにも思いを巡らせてみてください。そこには、発生生物学が解き明かそうとしている生命の不思議との意外な共通点が隠れているかもしれません。

日野太夢 (奨励研究員)

所属: 形態発生研究室

多様な生き物の形を、どうやって作っているんだろう?という疑問を解き明かすべく、体の形の基本となる骨の形成制御機構を研究しています。