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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【20年前を思い出して・・・】

2010.12.1 

中村桂子館長
 面白いことに気づきました。大切に思っているお友だちから、20周年というお知らせが次々と届くのです。
 まず、黒田杏子さん。博報堂でお仕事をしながら山口青邨の弟子として句作。東京女子大で始めた俳句をしばらく休んだ後再開された頃に本業の方でお会いした仲間です。青邨先生が亡くなられた後結成・主催された「監生俳句会」の句誌「藍生」の創刊20周年記念特別号が送られてきました。杏子さんの句が大好きで楽しんできたのですが、もう20年とびっくりです。
 次いで山崎陽子さん。朗読ミュージカルという新しいジャンルが創り出す「山崎陽子の世界」は、私の筆では書ききれない独特の魅力を持っています。笑いながら涙を流す心地よさをたっぷり味わえます。実は、生命誌研究館10周年の時に「蟲愛づる姫君」生命誌版、「いのち愛づる姫 ―ものみな一つの細胞から」を創っていただき、私たちの大事な財産になっています(堀文子さんの絵をつけた絵本として藤原書店から発売)。山崎さんからもつい先日20周年記念公演のお知らせをいただきました。
 次が上田美佐子さん。東京両国にある劇場シアターχのプロデューサーとして、独自の演劇活動をしてきた人です。実は、昨日もシアターχで多和田葉子作の「さくらの その にっぽん」を観劇してきましたが、チェホフの生誕150年を期に、時間をかけてつくった面白い作品でした。さくら山を手離さなければならなくなった元資産家と開発業者・・・まさに日本版桜の園です。多和田さんがすべてひらがなで書き、言葉と時代について考えさせてくれる相変わらずみごとな脚本でした。シアターχもそろそろ20年です。
 実は、生命誌研究館もまさにそろそろ20年。三人共、私と同世代です。20年ほど前が、年齢としても時代としても何か新しいことを始める時だったのでしょう。最近よく失なわれた20年という言葉が聞かれます。この20年、それぞれが自分らしさを求めて活動してきた私たちとしては、「失なわれた」などという情けない言葉を使わないですむよう、大事なことを考えて下さいと思います。俳句、ミュージカル、演劇と生命誌。外からは何の関係もなく見えるかもしれませんが、大事にしていることは同じ、ツーカーの感じがあります。これらの仲間に学びながら、20年たって今、本当に大事なことは何だろうと考えたいと思っています。

 【中村桂子】


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