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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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セロは一応ケースに収めて

2015年10月15日

20周年を期に創った舞台である「生命誌版 セロ弾きのゴーシュ」は、さまざまな要望にお応えしているうちに一年半の間に5公演(舞台数は9回)、それこそさまざまな場所でさまざまな方に観ていただき、やっと一応の幕を降ろしました。5周年の「生命誌版 ピーターと狼」、10周年の「朗読ミュージカル いのち愛づる姫」と並んで生命誌研究館の財産としてアーカイブに収め、必要な時に適切な形で舞台にのせることができるとよいと思っています。

「ピーターと狼」は、井上道義指揮の京都交響楽団との共演で始まり、4回ほど舞台にのせました。フルートがバクテリアというところで、まず楽団員の方が大喜こびするところから始まり、大いに楽しみました。オーケストラとの共演は、費用・時間共に大変でしたので、ピアノデュオのプリムローズ・マジックを御紹介いただき、以来新国立劇場から小学校まで、これもかなりの回数楽しみました。ピアノのお二人は、こっちの方が本物のピーターと思えるとまで言って下さり、いつも皆さまに楽しんでいただく前に、本人たちが楽しむという感じでした。研究と同じで、舞台も演じている本人が楽しむことがすべての始まりとつくづく感じた次第です。「いのち愛づる姫」は高校生たちが舞台にしてくれた例などもあり、これも愛されています。

ゴーシュは、思いがけず、チェコのプルゼーニュの人形劇フェスタへの参加で終りました。プルゼーニュってどんな街かしらと思っていましたら、実はピルゼン。ビール飲みたちはニコニコ顔の日々でした。ここでの体験は、一つの物語りとなりますが、エピソードを一つだけ。同時通訳の原稿を作って下さったオンジェイさんは、茂山流の狂言師(能楽協会はこれを正式に認めていないと聞き、その心の狭さに皆怒っています)なので、その間のとり方の上手なこと。チェコ語はわからなくても、うまく重なる気持よさを味わいました。いつも才能ある人の助けがあってありがたいことです。それもあって、最後に子どもたちが観てくれた回は、谷口ゴーシュが「今回完璧だったんじゃない」と思わず口にしたものになりました。完璧という言葉を使うかどうかは別として、私もこれまでにない一体感を持ったことは事実でした。「生命誌版」としての一応の完成を見たところで、よい仲間たちとのつながりと共にアーカイブ入りです。それにしても、2012年秋に、20周年にはゴーシュを、本物のチェリストで演ってみたいと思い、沢さんや谷口さんに恐る恐る声をかけた時のことを思い出すと、その後の時間の流れは夢のようです。本当にありがとうです。

生命誌の浸透と同時に、これらの舞台がさまざまな場でさまざまな方たちに観ていただける時があるよう、大事にしていきます。

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