1. トップ
  2. 語り合う
  3. おじいさんとお父さん、なかなかいいです

中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

バックナンバー

おじいさんとお父さん、なかなかいいです

2019年4月1日

二冊続けて興味深い本を読みました。私が最も苦手とする経済の話なのですが、二冊とも読後とても爽やかな気分になりました。
・『父が娘に語る経済の話』ヤニス・バルファキス(ダイヤモンド社)
・『資本主義って悪者なの? ジグレール教授が孫娘に語るグローバル経済の未来』ジャン・ジグレール(CCCメディアハウス)

父と娘、祖父と孫娘。「パパ、どうして世の中にはこんなに格差があるの?人間ってばかなの?」「資本主義は悪者なの?」と率直に問うおんなの子たちに先生方はていねいに答えます。これって私の問いでもあります。でも「経済モデルが科学的になればなるほど目の前にあるリアルな経済から離れていく」ので、なるほどという答になかなか出会えずにきました。

この二冊は、「元財務大臣の父がホンネで語り尽くす!世界経済の本質が一気にわかる!」「孫娘の素朴な疑問にやさしく答え、資本主義の問題と未来を一緒に考える」という帯の文の通りです。本当によくわかりましたし、経済学者や社会学者も、新自由主義と言われる過剰なほどの競争社会、グローバル企業が動かす金融市場社会が人間を大切にしているとは言えないと考えていることがわかりホッとしました。

細かいことは省略ですが、興味深いのは二人の最後の言葉が同じだということです。「民主主義」。そんなこと言われてもと思いもしますが、やはりそうだとも思います。資本主義が悪いというのではなく、「誰もが経済についてしっかり意見を言えること」が大事なのだということです。これを民主々義というわけで、結局一人一人が考え、しっかりするほかにないということでしょう。一人一人がよりよい経済と社会を考え続けることです。今の社会に疑問があったらその怒りを持ち続けることです。バルファキスは「賢く、戦略的に怒り続けて欲しい。そして、機が熟したらその時に必要な行動をとって欲しい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために」と言い、ジグレールは「若い世代が資本主義に代わるよりよいシステムを作りあげてくれるという希望は持っている。それには、各個人の行動が重要だ」と言っています。こうしなさいという答ではありませんけれど、私もしろうとながらまったく同じように考え、これこそ大事なことだと思います。

中村桂子の「ちょっと一言」最新号へ