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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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心と手 ①

2019年9月15日

今関心のあることに「心と手」があります。とくに最近これを考えることになった理由はAIブームです。心は、もう少し具体的に「意味」について考えていると言った方がよいかもしれません。「意味」については、ユニークなプロジェクト「東ロボくん」をなさった新井紀子さんに学ぶところ大です。新井さんが最近力を入れていらっしゃるのがリーディングスキルテスト(RST)です。人間が人間としての存在感を示せるのは意味がわかることであり、意味に価値を置くことです。そして生きる意味を考えながら日々を過すのです。

それなのに今学校で教科書が読めない子どもたち、つまり文章の意味がわからない子どもたちが増えているのだそうです。言葉の使用は人間特有の能力であり、言葉に意味をこめてお互いが考えていることを理解し合い心を通わせるのが人間の日常です。相手をののしったり、非難したりするのが言葉の役割ではありません。

本来の言葉の力を生かせない、つまり意味を理解せず心を通わせようとしない人はAIに負けるというのが新井さんの考えであり、私もそう思います。よく考えて心を通わせ合う人間らしい人間が暮らす社会であれば、意味を理解できないAIが人間を超えるいわゆるシンギュラリティはあり得ません。最近のAIの議論はなんだか人間を人間でなくAIに近づけようという方向へ行っているようで気になります。意味を理解することこそ最も大事という筋の通った新井さんの考え方に眼を向けて欲しいと思います。思っていることの入り口しか書けませんでしたので、今回は①とします。次回②を。

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