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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【サイエンスコミュニケーションも人と人とのコミュニケーションだ】

金山真紀
 先日、BRHにて、サマースクールがありました。
 皆、新しい技術を覚えられての実験。難しいことばかりだったに違いありません。この技術だって、僕の口や手などを通して、参加者の皆さんに伝わって行きました。空回りする僕の説明は、その伝わりを遅くしました。
 でも参加者の方が根気よく、何かをつかもうとしたから、何かが伝わったのでしょう。
 初めて学ばれたほやほやの技術を使って、細胞の核や細胞骨格あるアクチンを染め、細胞の宇宙を顕微鏡下に垣間みた時、皆が声にだして、一種の感動を感じられていました。この感動は即伝わったのです。たとえ言葉を通さなくても、伝わる何かがあったわけです。
 さらに、実験の結果には「きれいだなー」という感動以上の驚くべき事実が眠っているものです。それを私たち研究者は引き出してなんとかして伝えようとして、論文を書いたり、ポスターを作ったりして、賞賛されたり批判されたりしながら、日々頑張っているわけです。ただし、そのような科学者が発見した、伝えたいと思う事実を理解するには難しいことが往々にしてあります。慣れない特殊な表現、時には数学や物理の言葉を使ったりしがちだからです。
 伝わりやすいから、「きれいだなー」に頼ってしまいがちです。それでもいい場合もある。でも、わからない言葉をわかろうとするから、本質が見えてくる。相手がわからない言葉をわかりやすい言葉にしていくから、伝わっていく。お互いの歩み寄りで分かっていくのだと思います。これは何もサイエンスに限ったコミュニケーションではなく、日常に私たちが生きていく上で必要な、ありふれたコミュニケーションだと思うのです。
 こういうことを考えていると、世界中で起きているいざこざだって、なんだか解決できそうに思うのに、なぜかできていない。いつも歯がゆい気持ちがしています。
 サマースクールからコミュニケーションについて考え、感じたことをとりとめもなくばらばらと並べてしまいました。サイエンスを考えていたって、連想して私みたいに世界のことを考えている人だってあるのだということが、少しでも伝わればそれで今回はよいのかもしれません。



[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 金山真紀]

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