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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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子育て一年生

2017年9月1日

宇賀神 篤

関西に来て初めての夏が過ぎようとしています。頼んだ覚えなどないにもかかわらず毎朝6時前に開幕していたクマゼミたちのミュージカル公演は、ようやく千秋楽を迎えたようで、ホッとしながら少しだけ懐かしいような不思議な気持ちです。猛暑日続きの時期には控えめにしていたチョウ採集も、これからは本格的に再開できそうです。

生物学の研究には当然のことながら研究材料となる生物の確保が不可欠です。アゲハチョウの場合、メス成虫を野外で採集し・産卵させ・孵化してきた多数の幼虫を飼育して成虫にする、というやり方で確保しています。実は私にとって、この「育てる」という行為はとても新鮮なものです。これまで扱っていたミツバチのような「社会性昆虫」と呼ばれるタイプの虫たちは、一つの巣を単位とした集団生活を営んでおり、育児・採餌・掃除といった労働を巣のメンバー(働きバチや働きアリ)で分担して行っています。中でもミツバチの場合は、成虫になってからの日数経過とともに育児や掃除といった巣内の仕事から警備や採餌といった巣外の仕事へと業務内容が変化していく「齢差分業」という巧妙な分担システムを採用しています。ですので、人間(私)は時々様子を見てやる程度で、異常があったときの対応さえ間違えなければ実験に使う分の蜂は確保できていました。アゲハチョウの研究をするようになってからは、成長に応じて餌の配合を変え・飼育容器を清潔に保ち・蛹になったら性別と親の由来ごとに分けて羽化を待つ、という具合に子育て(と言うほど大層なものではありませんが)に取り組んでいます。同じ親から生まれて同じ餌を食べて育っている兄弟姉妹たちの中に、成長速度がゆっくりの子がいたり、臭角(機嫌を損ねたときに頭から出すオレンジ色をした臭い突起)をやたらと出す短気な子がいたりと、個性が見て取れるのもまた可愛いものです。研究材料ですので、最終的には実験に使ってしまうわけですが、自分で育てた個体による正真正銘「自分の実験データ」で面白い発見を語る日を楽しみに、採集・飼育・実験に励んでいます。

[ チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ 宇賀神 篤 ]

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