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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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あらためて「オーガナイザー」とは

2017年8月15日

橋本 主税

シュペーマンたちが発見したオーガナイザーは、両生類・初期原腸胚の原口背唇部に存在し、腹側に移植することで腹側組織を組織化された背側組織に分化誘導させられる胚性領域を指す、と教科書的には書かれている。最初の論文は1924年に発表されたからもう百年近くが経とうとしているわけである。

原口背唇領域の表層に位置するオーガナイザーが原口を通って胚の内部へと動き、胞胚腔の内表面を動物極方向へとさかのぼって、さかのぼりの先頭が頭部、さかのぼりの中途領域が体幹部で最後に胚内部に移動する領域が尾部を誘導すると考えられ、実際に胚の腹側に移植すると初期原腸胚の原口背唇部は頭部を、中期原腸胚の原口背唇部は体幹部を、後期原腸胚の原口背唇部は尾部を誘導する能力を有することが示されたことから、それぞれ頭部オーガナイザー・体幹部オーガナイザー・尾部オーガナイザーと呼ばれてきた。これは、頭部オーガナイザーから尾部オーガナイザーまで組織的に連続して胚の内部に入り込み頭部から尾部へと順番に移動するというモデルに依る考え方である。

我々はオーガナイザーの再考を行ない、上記の考え方は現実に即していないとするモデルを提唱している。では、このモデルで頭部・体幹部・尾部のそれぞれのオーガナイザーはどこに位置するのであろうか?実は、頭部オーガナイザーは初期原腸胚の内部、すなわち胞胚腔に面する領域に存在する(決して胚の表面ではない!)。そして、体幹部オーガナイザーはまさに初期原腸胚の表面である原口背唇部(元々オーガナイザーと呼ばれていた領域)に存在することが分かったのである。これらはおそらく両生類全体に渡って共通であると考えられる(Yanagi et al.,2015)。問題は尾部オーガナイザーである。実は、近代のオーガナイザー研究の主力であるアフリカツメガエルを用いては尾部オーガナイザー活性を有する胚性領域が見つかっていない(おそらく存在しない)のである。ツメガエルにおいて尾部の形成を誘導するためには胞胚腔の屋根と床を物理的に接触させればことは足りるわけで、おそらくは本来なら発生過程で物理的に接触することの無いこれらの組織が原腸形成運動によって強制的に接触させられることによって尾部構造の形成が誘導されると考えられるのだ(Nishihara and Hashimoto,2014)。ただ、尾部オーガナイザーと名付けられた領域が報告されているという事実は、他の両生類では後期原腸胚の原口背唇部が、ツメガエルで見られたこれらの組織の物理的接触に相当するなんらかの役割を果たしているのではないかと想像できる。

シュペーマンの時代(20世紀初頭)では、前(頭部)から後(尾部)まで一直線状に並んでいたと考えられて来たオーガナイザーが、21世紀になってその物理的配置が新たになったわけだが、実は分子(遺伝子)の働きを見ても組織の移動や組織同士の物理的接触を視野に考え直さねばならない事実が明らかとなってきている(この点については、またいつか書きます)。研究者仲間からは「まだオーガナイザーやってんの?」と言われることが多くなってきたが、シュペーマン以来、決して古びてはいない最も重要な発生現象のひとつとしてオーガナイザー研究はいまだにその面白さを我々の目の前に提示し続けてくれている。

[ カエルとイモリのかたち作りを探るラボ 橋本 主税 ]

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