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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【生きものを見つめる眼って・・・?】

桑子朋子
 4月にオープンした「愛づる・時〜生命誌がひらく生きものの絵巻物語」展。回廊の突き当たりに、畳ソファーを御簾で囲った小さなくつろぎのスペースをつくりました。今は、展示の関連図書、生きものが主役の詩集、のそのそ這いまわる4匹のカタツムリなどをご覧頂けます。雑記帳の書き込みには「昔は虫愛づる姫君、今は虫愛づる婆」と洒落た一言や、大胆なカタツムリのスケッチが、、、。ぜひ、覗いてみてください。今回の展示の大きなテーマは「虫愛づるから、生命(いのち)愛づるへ」です。一年間どっぷり企画を担当していると、当たり前のようなことに思ってしまいますが、先日、男の子に「虫、好きなんですか?」と真顔で質問を受け、どきっとしました。ミミズやコオロギさえ恐くて、と彼はすまなさそうに眉をしかめます。私も昔は苦手でした。とくにヌメヌメした青虫! 夢でぎゃあっと悲鳴をあげたことも。でも、フンチュウやらマキガイやらバクテリアやらをも愛する方々の実に楽しげな話に耳を傾け、幅広く生物学を捉えることの難解さに苛まれながらも生きものについて考えていく中で、些細な日常も変わってきます。クモやムカデの類に、ほほう居るなと眼を見張り、しばし観察。よくもまあ器用に動かすもんだと感心し、やっぱりここは駄目よとベランダに誘い出す。かつては即、新聞紙で叩いた相手にも、例えばそんな小さな気持ちが動きます。虫愛づる姫君のような筋金入りの「愛づる」とまではいかなくとも、生きものに眼を向けるほんの少しの余裕を持って生命誌を考えて欲しい。この展示がそのきっかけなると嬉しい。そんなことを話しました。
 偉そうなことを言いましたが、もっともやっかいな小さな生きものである「ヒトの子」に、私は時間をかけて眼を向けているか。実はきちんと語れません。毎朝、保育所へ見送る2歳の娘に「早く、遅れるよ!」を言わずにはいられない。絵本の途中でちらっと時計を見てしまう。「子供を育てる中で共有できる神話的時間のかけがえのなさを、大人の日常の効率で見捨ててないか」という中村館長の一言にも、どきっ。短い夏休みを終え、何か切り替えようと思うこの頃です。


[桑子朋子]

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