中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子がその時思うことを書き込みます。月二回のペースで、1995年5月から更新を続けています。

2018年1月7日

人間が人間でなくなる・・・大げさかな・・・でも

中村桂子

新しい年になりました。お祭やイベントが苦手なので、東京でのオリンピック、それに続く大阪万博で騒がしくなるのは嬉しくないのですが、そんな中でも、変わらない日々が送れることを幸せと感じて暮らしていこうと思っています。今年もよろしくお願いいたします。

昨年末、今年は「こころ」を含めて人間を考える年にすると書きましたがそう考えた理由を簡単に書いておきたいと思います。

少し大げさに聞えるかもしれませんが、今私たちは大きな岐路に立っていると思うのです。近代科学に基礎を置く、いわゆる近代文明がもつ世界観をこのまま持ち続けていくのか、それとも別の世界観をもつようにするのかという別れ道です。近代文明の見直しの必要性はこれまでも言い続けられてきたことであり、別に新しい視点ではありません。けれどもここ数年の情報技術と生命操作技術の進展を見ると、見直しましょうとだけ言っている時ではないと思えるのです。技術の進歩だけを信じて、人間とはなにか、どう生きるのが幸せかという本質を考えずにいると、「人間は生きものであり、自然の一部である」ではなく、「人間は機械の一つである」というところに行くような気がします。大げさな言いようかもしれませんが気になる身近な例を二つあげます。

AIは今やアナウンサー並みに話せるようになっており生活の中にどんどん入ってくるとされています。ディープラーニングでとてつもなく大量のデータを与えればそれができるわけですが、どんなにスラスラ話しても、言葉の意味はまったくわかっていないと聞くと気になります。言葉はそれを発する人の思いや考え方を知るものであり、そこからお互いの関わりが生れ、社会が成り立っていくものです。同じ言葉でも、時と場合、それを言った人によって意味が違ってきます。それを含めて受け止めることでそこから何かが生れていくわけです。まわり中に思いも考え方もない言葉が溢れたら、どうしたらよいのでしょう。人間を人間にしている一つに「言葉をもつ」ということがあるわけですから。恐らくこれからはビッグデータを処理して答を出すAIの言葉に多くの人が判断をまかせることになるのでしょう。私が思っている人間らしさは消えていきそうです。これは単なる懐古ではないと思い、人間らしさを捨てない道を歩きたいと思っています(それはAIを含む情報技術を否定することではなく、まず人間ありから始めるということです)。

身近な例を二つあげますと書きましたが、少し長くなりましたのでもう一つは次回にまわします。

みなさんからのご意見生命誌の広場より

人間とは何か、どう生きるのが幸せか…

投稿日:2019.01.16 / 名前:井上道代

 更科功氏の『絶滅の人類史』を、興味深く読みました。ホモ・サピエンスは、20数種類いた”人類”の最後の1種に過ぎないことや、進化の長い道のりを知ると、やはり人間は自然の一部だとの思いを強くしました。又、自然の一部でありながら、その進化の道筋(必然と偶然の織りなす道)の不思議さ、そして(他の人類に比べて)その歴史の短さ・かつ地球への影響力の大きさを改めて思い、現状に対する不安をやはり感じてしまいます。
 直立二足歩行という他の生物がしなかった選択を偶然?成功させ、石器を作ることを通じて脳と手を共進化させ、集団の力を生かし進化した脳を使うことで、言語・コミュニケーションを駆使して、個の力を空間的にも時間的にも超えたホモ・サピエンス。でも今は、この地球上での存続について、自らの中に不安を見出している。
 人間は、生物だからやはり生きていきたい。子孫も絶えてほしくない。それが、大前提ですよね。持続可能な環境の中で、幸せに生きたいし、子孫にもそうであってほしい。それに尽きると思います。ただ、持続可能な環境を保つのが難しい現状をどうしたら解決できるのか。幸せに生きるとは、どういうことで、どうすればいいのか。ですよね。  幸せ…。数多の幸福論があり、一人ひとりの背景によって感じ方も異なるので、定義はできないかもしれませんが、人間独自のものとして、いくつか言えると思います。(生きることの基礎としての欲求が満たされることは前提として、)進化の基礎となった、手と脳を使って達成感を得ること。社会と関わり、コミュニケーションを通じて喜びを得ること。これらが満たされない諸問題に、地道に対処していくとともに、自然とのかかわり、農の営みは、館長のおっしゃるとおり、絶対に大切と思います。自然と関わる中でこそ、植物などが育つ日々の変化を、見て触れて気づいてこそ、自然の凄さ・不思議さを、感情レベルでストンと納得できるのだと思います。
 目的とデータを正しく入力すれば、最適解を提示すると言われる、AI。《正しい目的とデータ》とは、なんでしょう。考えていきたい問題ですね。


語り合いの続きは「生命誌の広場」へ

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