中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子がその時思うことを書き込みます。月二回のペースで、1995年5月から更新を続けています。

2017年6月15日

威丈高にいう嘘

中村桂子

先回言葉の大切さについて書きました。国会は、私たちの代表が話し合いをし、国のありようを決めていく場ですから、お手本になるような言葉が使われるところでなければ困ります。よい言葉は美辞麗句ではありません。適確で、正しい言葉を聞かせて欲しいですし、嘘は許されません。嘘をついてはいけない。子どもの頃に家の中にあったいくつかの約束事の一番がそれでした。

小学生の時です。「ハンカチ持ちましたか」。早く学校へ行きたかったので、いい加減に「ハーイ」と言って出て行こうとしたら衿足をつかまれました。忘れて置いてあるから聞いてくれたのに。確かめもせずにごまかそうとしたというので叱られ、授業にはギリギリ間に合いましたが楽しみにしていた朝の遊びはフイになりました。その後も、ごまかしの嘘をつくと結局どんどん深みにはまり、どうにもならなくなるという体験をして、子どもなりに嘘はダメと学んだものです。

もっとも、大人になるとかけ引きが必要と言われます。嘘も方便です。私はこれが苦手です。思ったことをそのまま言い、そのまま行動する。もちろん、迷惑をかけたり勝手をしたりしてはいけないことはわかりますが、最近流行の忖度は苦手です。相手が何を求めているか、何を考えているかはわかっても納得が行かなければ合わせるわけにはいかないと思ってしまいます。こういう人があまり波風を立てずに生きようとしたら、権力からなるべく遠くにいることです。あるものをないなんてとんでもない。こんなのあたりまえと思うのですが、嘘を平気で言うだけでなく、威丈高に言うのが流行しているみたいで困ったものです。子どもになんと説明したらよいのでしょう。

みなさんからのご意見生命誌の広場より

言葉とサイエンス

投稿日:2017.06.10 / ニックネーム:友

季刊誌93の中村桂子館長のお言葉に導かれ、やや的外れかもしれませんが「言葉」に関する感想をこちらに置かせて頂こうと思い立ちました。「和」は私の大好きな言葉の一つです。「和まる」は私も初めて知り、驚きました。日常で使いたくなるような、やわらかく穏やかな言葉だと感じました。

私は大学の農学部在学中にこの季刊誌と出会い、かれこれ10年以上楽しく拝読しております。思えばこの10年間、常に私の部屋や仕事机にはなにかしらBRHのペーパークラフトが飾ってありました。たまにふと目をとめては、その精巧なつくりに感動しついつい笑みをこぼしています。
私は今研究者として働いています。遺伝学的アプローチをしていたこともあり、分子生物学にも昔から興味をもっていました。しかしどこかで感じていた違和感や疑問、それらに答えをくれたのがこの季刊誌だったように思います。極小の世界の感動は物質としての巧みさではなく、それらが集まって生物を織り成すことで生まれるように思います。

最近の生命誌テーマにありました「ゆらぐ」、生物を考えるときにいつも私が感じることでしたので、勝手ながら嬉しかったです。生物にはたくさんの、そしてその多くは物理化学で説明ができないような「ゆらぎ」があり、それこそが生物の強さであるような気がしてきました。なんて奥深く、巧みな世界だろう、といつもいつも不思議でたまりません。しかも生物一個体ですら驚くべき生命の仕組みを持つにも関わらず、数えきれないほどの生物が様々なスケールで生命を「紡ぎ」絶妙なバランスを保つ自然、そしてその自然を見つめ、「愛で」て、共に生き、文学や芸術など新たな命を吹き込んできた人々。万葉集などにみる繊細で美しい自然の描写に心惹かれてきた私にとって、科学と文学・歴史・芸術などの垣根を超えてその壮大な歴史と世界に「生命誌」という言葉を授かったとき、探していたものが見つかったような気がしました。うまく説明できないのですが、直感的にとても正しく感じたのです。私も科学者になっていいんだと、背中を押されたように感じました。
そして季刊誌で私の好きな言葉たちを見つける度、その時の気持ちを想い出します。

テクノロジーの発展で「不自然」なことがどんどん増えてるように感じます。また、それを肯定する研究者仲間が多いことも事実で、頭で理解しつつもどこか寂しさを覚えます。しかし、季刊誌で多様な分野の方と中村館長の対談を読むとき、巧妙且つしたたかで美しい生物を「生命誌」の一部として知るとき、ただただ自然や生き物が大好きな私自身の研究者としての本質が受け入れられたような気がして、いつも元気をもらっています。
遠方に住んでいるため、残念ながら生命誌研究官には10年ほど前に一度足を運んだきりです。専ら季刊誌を愛読するのみではございますが、皆さまの益々のご活躍をお祈りするとともに、この場を借りて深く感謝申し上げます。 長文、駄文、失礼いたしました。

語り合いの続きは「生命誌の広場」へ

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