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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【生きものの「変わる」を真似る】

2012年11月15日

藤井文彦

デザイナーの原研哉さんが、とある展覧会で「笑うクルマ」を出現させたそうです。彼曰く、車のフロント部は人の顔のメタファであり、そのときクラクションは威嚇であると。クラクションを鳴らしたときに車が微笑すれば、街角はきっと和らぐはずと考えたそうです。実際にそのクルマを見ると、なんとも微笑ましいデザインです。

さて我が家の車は、2年ほど前に大学時代の先輩から譲ってもらったジムニー。ジムニーを愛して止まない先輩が、数台もっている中から1番オンボロを譲ってくれたのです。案の定ボディにはいくつかの穴があいており、交差点に停止すると、ときどき歩道の人が穴を見て笑っていました。要するに、我が家の車は「笑われるクルマ」だったのです。そんな笑われるクルマも、頑丈なテープで補強することによって笑われない車に変わりました。ヒトが手を加えることによって、彼のボディは生まれ変わったのです。

片や生きものはというと、特に真核生物はオートファジーやプロテアソーム系の働きによって、古くなった細胞内小器官やタンパク質をアミノ酸などの部品レベルにまで分解し、その部品や新たに摂り入れた部品を使って新しいボディへと作り変えていくのです。つまり、自分で自らの体を更新していくのです。

これから当館の展示物も少しずつ創り変えていくわけですが、それを創った時の科学的知見のまま静的であってはなりません。研究によって見出された新たな知見を摂り込み、自らで更新していく、そんな仕掛けのある展示物を創れたらと思っています。その時に在るものをガラリと置き換えるのではなく、在り合わせで新しいモノへと変わっていけるチカラ、そんな生きものが得意とするブリコラージュの能力を展示物に与えられればと思うのです。さてこの日記でも、「笑う」から「変わる」へのモーフィングを感じとってもらえたでしょうか。

[ 藤井文彦 ]

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