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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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ゲノムで語る生命誌の試み

2013年10月1日

平川美夏

4月から表題の名前のついた勉強会をはじめました。着任された西川顧問を中心に研究館の「これからの方向を探る活動」という位置づけで、お世話係を仰せつかりました。題名だけ見てもちょっと荷が重い大役です。中村館長の主旨を汲みますと、大量のゲノムデータが流通している現在、生命誌が考える生命現象の基本単位であるゲノムと表現型を結びつけ、発生・進化を考える道筋をつけることをめざして、まずみんなで論じ合いましょう、ということかなと思います。やっぱりたいへん、私にできるんでしょうか。しかし、と気を取り直しました。実は、私は大学院生だったころ中村桂子という気鋭の学者が著書のなかで生命誌研究館という「実験のあるサロン」を作って、実験の現場の傍らで、様々な分野の人々が集まってワイワイと議論をする中から新しい、文化としての科学を発信しよう、と述べるのを聞いて以来、このサロン構想こそが理想と思っていたのです。

表現セクターの表現は、生命誌の美しく正確な表現を目指します。研究の世界の言葉を様々な方法で表現にすることで、多くの人々と知を共有したいと奮闘しています。でも本心は科学はそれだけでも文化として成立するものと思っています。ファラデーやパスツール、科学者が公開実験で自説を証明し、それを聴衆が見守るような時代があったのではないでしょうか。今や科学は専門化し、細分化して門外漢には近づきがたいものになっていますが、本物の迫力やそれを解き明かしていく説得力があれば、多少難しくってもおもしろさは伝わるのではないかと思います。逆にちょっと歯ごたえがあるくらいが楽しいという世間であってほしい気がします。

さて、勉強会ですが実際にはじめてみると、西川顧問は興味の赴くまま、ヘビのホメオボックスから化石DNA、ワムシ、恐竜の脳と軽快に話題をわたり歩き、新しい風を吹かせます。私はといえば、ゲノムの本を読んで紹介していますが、まだまだ議論に発展させる余裕はありません。でもいつか、みんなでワイワイ語り合う知的なゲームの時間となり、研究に表現に、生命誌の展開の中心となればいいなあ、なんて大きな野望を抱いています。

それから研究館では開館20年を迎え、シンポジウムシリーズを開催していきます。日頃研究室や学会で行われる研究者同士の対話をお見せします。まさに「実験室のあるサロン」ならではの試みです。どうぞ奮ってご参加下さい。

[ 平川美夏 ]

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