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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【人とサルが分かり合う日】

2015年6月2日

齊藤わか

幼い頃から動物が好きなほうでしたが、ニホンザルやゴリラ、テナガザルといった霊長類には親しみが持てませんでした。人間に似た顔を持つのに言葉が通じない、恐ろしい声で叫んだり吠えたりする不気味な生きものという印象が強かったのです。その印象はつい最近まで払拭されることはなく、京都大学で過ごした学生時代に、世界に名高い京大の「サル学」の講義を受ける機会を逃してしまいました。何て惜しいことをしてしまったのだろうと自覚したのは、次回の「サイエンティスト・ライブラリー」で、ゴリラ研究の第一人者であり京都大学総長の山極寿一先生を取材することになったからです。

約半年間、少しずつ本や教科書を読んで一から霊長類学の勉強をしました。付け焼き刃の知識でしかありませんが、霊長類研究は「役に立つ」ことは少ないけれど、私たちのルーツを知るにはなくてはならない学問だと改めて感じました。騒がしい、恐いと思っていたニホンザルやテナガザルの音声は、人間の言葉のように様々な意味があります。森で培った樹上生活というスタイルが、二足歩行に適した姿勢につながったという学説もあるそうです。いちばん驚いたのは、野生のゴリラの群れの一員になって生活を共にするという山極先生の研究方法です。音声と行動を真似ることで、人間でもゴリラの仲間としてコミュニケーションが取れるそうなのです。他の生きものなら、エサで飼いならしたり従わせたりすることはできても、仲間にしてもらうことはできないでしょう。進化的に近い生きもの同士、それだけ分かり合える存在なのだと思います。彼らにただの研究対象ではない絆を感じ、ヒトとヒト以外の霊長類がどちらも幸せになれる道を探って来られた先生の人生にも納得です。私も、サルたちを不気味だと思っていたことがもうしわけないという気持ちになりました。「可愛いくない」とか「恐い」という先入観に囚われず生きものを見るためには、まずよく知ることが大切ですね。

次回の「生命誌85号」は6月15日に発行予定です。ぜひごらんください。

[ 齊藤 わか ]

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