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Special Story

ホヤの卵が教えてくれること

発生の窓から進化を見る:
佐藤矩行

東北地方を訪ねて、酒の肴に「ホヤ」を食べたことはありませんか。
皿の上のホヤを見ているだけでは、どんな生き物なのかわからない。
ところがこのホヤ、最先端の生物学では、今やなくてはならない研究対象です。
ホヤを使うことで初めてできる研究がある。そう考えて、研究者たちは実験に励んでいます。


一般的に動物を分類する時、背骨をもつ脊椎動物と、背骨をもたない無脊椎動物に分けることが多い。しかしながら、分類学的には脊索をもつ脊索動物(脊索動物=脊椎動物+頭索類[ナメクジウオ]+尾索類[ホヤ])と、頭索[とうさく]類と尾索類を除く無脊椎動物に分けるほうがより論理的だとされている(①)。そこでヒトとホヤが同じ仲間に入る。

 ① 脊索動物の系統図

脊索(動物の背側にある棒状の支持器官で、脊椎動物では発生が進むと椎骨に置き換わる)をもつ動物を脊索動物と呼び、脊椎動物(魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類)と頭索類・尾索類を含む。脊索動物はさらに、半索動物や棘皮動物とともに、新口動物に分類される。

脊索動物はさらに、脊索をもたない半索動物(ギボシムシ)や棘皮動物(ウニやヒトデなど)とともに、新口動物というより大きな動物群を形成し、共通の祖先から進化してきたのだろうと考えられている。

では、新口動物の各群が登場する過程で、脊索をもつ動物はどのようにして現れたのだろうか。私たちは、ホヤや脊椎動物で見つかった「脊索を作るための遺伝子」を追いかけることで、その問題に迫ろうとしている。

マウスでは、古くからブラキュリーと名づけられた、尾が短くなって生まれてくる突然変異体が知られていたが、その原因遺伝子(T遺伝子とも呼ばれる)が、1990年になって単離された。両生類や魚類の遺伝子研究もあわせて、T遺伝子は、脊椎動物において脊索を含む中胚葉と呼ばれる組織の形成に重要なはたらきをすることが、明らかになってきた。

そこで私たちは、ホヤのT遺伝子の役割を調べてみた。その結果、ホヤのT遺伝子は、初期胚の中で将来脊索になる予定の細胞でのみ発現すること(②)や、この遺伝子を本来は脊索にならないはずの細胞で強制的に発現させると、脊索に変わることがわかった。つまり、ホヤにおいて、T遺伝子は脊索の形成に重要な役割を担っている。

では、脊索をもたない棘皮動物や半索動物にもT遺伝子は存在するのだろうか。もし存在するとしたら何をしているのだろうか。それぞれのグループの代表的な動物であるウニとギボシムシで調べてみると、確かにT遺伝子をもっていることがわかった。しかも、遺伝子が発現している場所を調べてみると、どちらの動物でも、中胚葉あるいはその周辺部分(ウニでは二次間充織[かんじゅうしき]細胞という部分で、ギボシムシでは原腸の形成部位と口の形成部位)で発現が見られたのである。(④ ⑤)。
 

② ホヤ胚におけるT遺伝子の発現。将来脊索になる細胞(③で緑色に見える部分)のみで発現している(黒く染まった部分)。
ウニ胚(④)およびギボシムシ(⑤)胚でのT遺伝子の発現。青および紫色に染まった部分で発現が見られる。
(図および写真=佐藤矩行)

 ウニやギボシムシには脊索はないが、同じ中胚葉に属する細胞はもっている。中胚葉の細胞は、発生の初期に活発に運動して胚の中に入り込んでいく。T遺伝子は、その中胚葉の細胞の形成に何らかの関わりがあると私たちは考えている。

以上のことから、新口動物の共通の祖先が現れた段階で、すでにT遺伝子は、中胚葉の形成やはたらきにとって重要な役割をもっており、それがなんらかの形で変化して脊索を作るようになったというシナリオを考えることができる。もちろん、これはあくまで仮説である。

この仮説を検証するためのカギは、「脊索動物のT遺伝子がはたらけば脊索ができるのに、なぜ棘皮動物のT遺伝子がはたらくと、二次間充織細胞ができるのか」という問いを解くことにあるようだ。ホヤは、私たちヒトを含む脊索動物の起源と進化を探る手だてをこれからもたくさん提供してくれそうである。

(さとう・のりゆき/京都大学大学院理学研究科教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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