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Talk

恐竜とDNAと博物館

石井健一 林原自然科学博物館準備室長 × 中村桂子 JT生命誌研究館副館長

DNAから恐竜まで、博物館は生き物の宝庫。
生き物研究の面白さを伝えたい・・・。
現場が覗ける博物館づくりを目指す2人が、その夢と現実を語ります。

生命誌研究館ルーフガーデンで。博物館の夢が広がる。
(写真 = 赤木賢二)

生き物で地球がわかる

石井

生命誌研究館のオサムシの平行進化の展示は大変面白いですね。私は主としてフズリナという単細胞生物の化石を見て進化を追ってきましたが、時間的、地理的に追っていくと平行進化が見られましたし、大陸移動との関係も出てきました。

中村

それは興味深い。ぜひデータをお教えください。生き物が地球の歴史と関わっているのは当然のはずですが、実際にわかっていく過程はやはりワクワクしますね。

石井

化石は形態だけですから、苦労しました。DNA研究や研究館の展示が私の若い頃にあったら、もっとよくわかり、ありがたかったと思いますよ。

中村

そんな小さな生き物の化石を顕微鏡で見るお仕事から、恐竜博物館づくりにお移りになったのは。

石井

アメリカの博物館で恐竜のすばらしい展示を見て、日本の子供たちにも見せたいと思いましてね。長い間実験室にこもって研究させてもらったので社会へのお礼もしたいと思い、博物館づくりを思い立ちました。その場合、できあがったものを見せるのではなく、発掘や調査を進行形で見せて、フィールド研究の楽しみを伝えたいと考えました。

中村

まさに“研究館”。私たちも、研究を進行形で出すという考え方で進めています。研究者の気持ちを共有できる場をつくりたい。科学館や博物館は、できあがったものを教えがちですが、生物学はとくにまだわからないところが多く、わかりつつあるところが一番面白いですからね。

今、恐竜研究の現場は

中村

その場合、全体像を知るにはさまざまなものをいかに的確に比較するかが大事ですね。

石井

幸いモンゴル科学アカデミー地質学研究所の協力を得て、ゴビ砂漠の調査を始めました。ゴビ砂漠は恐竜の個体数が多く、白亜紀の地層が軟らかくて掘りやすいのです。また、恐竜絶滅後の第三紀の哺乳動物もたくさん出てきますが、まだ誰も研究してない状況なんです。

中村

恐竜が絶滅して、小さくて弱かった哺乳類が場所を得たという状況が見えてくるわけですね。恐竜だけが走り回っている絵をよく見ますが、他の生物もいたはずで、当時の生物全体の様子がわかりそうで魅力的ですね。

石井

昆虫も出てきますし、花粉や大型の植物化石の研究者にも参加してもらって、当時の環境について調べていますが、結果はこれからです。日本には哺乳動物や恐竜の分野の研究者がまだ少ないのです。こういう仕事では職に就くのが難しいから、若い人が研究したがりません。それにフィールド研究は厳しい条件なので、現代の若者はなかなか適応できないようです。ゴビは探検ができないと学術調査もできませんからね。

中村

でもそんな宝庫に、ぜひ夢のある若い人たちに行ってほしいですね。

石井

今モンゴル調査に参加できる研究者を公募しているのですが、応募者は少ないですね。

中村

面白そうなのに。厳しいところは割合平気ですし、食べ物もなんでも大丈夫なので、私、駄目ですか?先生の場合、恐竜でも個体よりは生活に目を向けていらっしゃるところが説得力がある。巣の中の赤ちゃんが同じ方向を見ていて、その先にお母さんがいたとか。 恐竜の赤ん坊の集合した化石を発見した時、赤ん坊たちが埋もれた状況がパッと目に浮かびました。化石はそれぞれに物語をもっているわけですから、博物館では、そういう物語がわかるように展示したいと思っています。

石井

恐竜の赤ん坊の集合した化石を発見した時、赤ん坊たちが埋もれた状況がパッと目に浮かびました。化石はそれぞれに物語をもっているわけですから、博物館では、そういう物語がわかるように展示したいと思っています。

中村

卵はやっぱり親が温めていたんでしょうか。

石井

そういう恐竜もいたようです。子供を育てていた恐竜もいたのではないでしょうか。最近は、幼体が中に入っている卵をスキャンし、さらに特殊な処理をして殼と骨とを分離させて中から取り出すようなこともしています。

中村

発生の過程も見えるとすると、過去の話としてだけでなく、現存の生物につながるものが見えてきますね。

石井

じつは、私は人間について考えることのできる博物館をつくりたいのです。恐竜も含めてその他大勢の中からヒトになっていくさまを描きたいのです。その中で恐竜の絶滅のさまも見せたいと思っています。人類の進化を語る展示で成功している例は少ない。古生物学者と人類学者が専門分野で分かれているのが問題ですね。骨と文化とを一体化して見ないと、人間のことはわかりません。

中村

生き物の研究は結局、生き物としての人間を理解するところにつながっていく。生命誌も同じ狙いをもっています。21世紀に向けて大事な視点だと思って。

石井

今、化石の研究者と自然人類学の研究者が協力し、ヒト化への展示の表現法を話し合っていますので、面白い展示ができそうです。

新しいことは民間で

中村

ところで、日本では学問的に新しいことをしようとすると、国や地方自治体など公の場でやるべきだと考えがちですが、先生は民間でなさってますね。私も新しいことは民間でやるのがよいと思う。一方、日本で民間でやる難しさも感じているのですが。

石井

むしろ私は、これまで公的機関でやる難しさを感じてきましたし、そのやり方にもの足りなさを感じていました。今の会社と偶然一緒にやることになって、本当によかったと感じてます。文化は自由な発想で、しかもおおらかでなければできませんから。

中村

おっしゃることはよくわかります。でもたとえば、税制など民間の文化活動かやりにくくなってますね。これは何十年も言われ続けていることですが。

石井

海外の調査に出るとき、文部省や外務省の推薦が受けにくいということもあります。

中村

財団にしても海外は全然違う。イギリスのウェルカム、アメリカのロックフェラー、フォード、ハワードヒューズなど。活動が大型ですし、自由です。博士号取得者が100人ぐらいいて研究活動を引っ張っているという誇りをもっている。文化国家って、そういうものじゃないかな。

石井

民間だと資金を出してくれる人が直接見えますから、必死でいいものをつくろうとしますよ。

中村

税金だとそれがわからない。行革もそういうところまで見てほしいですね。従来の役割からいえば、民と官または公と私の中間的になるような活動がこれから伸びないと、いい国になりませんね。

石井

モンゴルとの協力も1991年の暮れに話がついて、92年の夏にはもう予備調査、そしてすぐ調査が始められました。これが民間のよさです。

中村

私も同じような体験をしました。官だとさまざまな手続きで何年も待つことになったでしょう。

石井

いいと思ったらすぐにでも実行に移すことができました。本当にありがたいと思っています。

本当のオリジナリティ

中村

先生のお考えはよくわかりましたし、とてもユニークなものになりそうですね。

石井

当然のことをやっているんですけれどもよくユニークだと言われる。

中村

私のところもユニークだと言っていただくたびにそう思います。一番当たり前のことなんだと。まず予算と箱があって中身を何にするかというのでなく、やりたいことがあって始まった。しかもそのやりたいことは、これまた当たり前のことでしたから。

石井

設立委員会をつくって、おえらい先生が来てというのは駄目ですね。やっぱりつくりたい連中がワイワイ議論してやらなくてはいいものはできません。

中村

どうしてもつくりたい人がいない時は、つくらないほうがいいですね。博物館づくりについてご相談にいらっしゃると、どなたがなさりたいんですかとまず聞くんです。情報化社会と言われ、とにかく外の情報をとることが大事と言われますが、仕事をする場合、内発的でなかったら全然意味がないと思う。学問も、中から出てくるものでなければ面白くない。科学離れと言いますが、内発的なものを出させるようにしていないから、興味がもてないのは当たり前です。毎晩小さなフズリナの化石の薄片を擦っては顕微鏡で見るという気の遠くなるような先生のお仕事も、これが面白くて大事と思っていらしたわけでしょう。

石井

そうです。しかし、研究をするための試料づくりにほとんどの時間を費やしていましたから、若い時何べんか海外への誘いもあったんですけれど、行けませんでした。けれども、最後に論文を出した時に海外の連中が高く評価してくれ、大変うれしかったですね。

中村

自ずとオリジナリティが出てきたということですね。

石井

職人さんみたいなことをやっていた。それが結果として深い観察につながったのでしょう。

中村

実験室での、毎日の仕事はそうですよ。ただその時のアイデア、動機、方法、目的などが問題なわけですよね。そういう科学の実態が伝えられないと、外の人には科学は見えてきません。

石井

科学者としての探究の仕方を博物館でぜひ若い人たちに伝えたいですね。

中村

生命誌研究館はまさにそこを狙っています。

石井健一(いしい・けんいち)

1926年香川県生まれ。元神戸大学教授。現在、林原自然科学博物館準備室長。専門は古生物学・地質学で、とくに古生代のフズリナ化石研究の世界的権威。

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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