①赤血球のヘモグロビンの遺伝子(DNA)とこの遺伝子をはたらかせるためのタンパク質(矢印)。分子の存在が立体的に観察できる。 ② ①を低倍率で見たときの全体像。タンパク質がDNA上のいくつかの決まった部分と同時に結合して、DNAにループ構造をとらせている。 ③球状のヌクレオソームが数珠状につながっている。

DNAが見てみたい。そう思う人も多いだろう。でも、そんなことが本当にできるのか。細胞の形なら、小学校の光学顕微鏡でも見ることができる。だが、それでは細胞膜やミトコンドリアなどの細かい構造は観察できない。まして、細胞よりもはるかに小さいDNAやタンパク質などの「生体分子」を見ることは、まず不可能だ。

電子顕微鏡があるじゃないかと思われる方もいるだろう。確かにそうだ。20世紀後半に電子顕微鏡が登場して以来、その観察技術には改良が重ねられ、最近では、工夫次第で生体分子そのものまで見られるようになってきた(『生命誌』6号掲載の藤吉好則氏の記事および10号掲載の唐川信隆氏の記事参照)。

ただし、電子顕微鏡による観察には、一つの弱点がある。試料に電子を当てて観察するために、細胞や分子を固定・染色しなければならず、生きたままの状態では観察できないのである。なるべくもとの状態を保ったまま観察する工夫はなされているが、最終的に固定することに変わりはない。

こんな電子顕微鏡の弱点を、私たちの用いている原子間力顕微鏡なら克服できる。原子間力顕微鏡では、極細の先端をもつ探針(プローブ)が、観察したい試料上を、ちょうどレコードプレーヤーの針がレコード板上を移動して凹凸を検出するように探索する。その際、探針は試料中の原子との間にはたらく引力や反発力を検出し、それをもとに表面構造を視覚化するのである。探針はナノメーター(100万分の1ミリ)単位の凹凸を検出できるので、生体分子はもちろん、原子まで見ることができる。しかも、プローブでなぞれさえすれば、試料は必ずしも固定されていなくてもよく、溶液に浸したままの生体分子さえ観察できるのだ。さらに、電子顕微鏡ほど大きな装置を必要としないという利点もある。

生(なま)で見られるという素晴らしい特徴を生かして、私たちはこれまで、遺伝子(DNA)や酵素(タンパク質)を見てきた。遺伝子の一部に、その遺伝子をはたらかせるためのタンパク質が結合している様子や①②、真核生物のDNAの折り畳みの基本であるヌクレオソーム③、あるいは細胞のイオン濃度を調節する酵素の形などを固定せずに見ることができた時は、ヤッタゾと思った。

原子間力顕微鏡は、まだ登場して間もない技術であり、まだまだ改良の余地がある。将来、探針の操作方法などを工夫すれば、RNAからタンパク質が合成されていく過程や、細胞分裂時の様々なタンパク質の挙動などをそのまま見られるだろうと思っている。細胞を舞台に繰り広げられるミクロの世界をライブでお見せできる日はいつか。乞うご期待である。

(たけやす・くにお/京都大学総合人間学部教授)