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闇と光の回廊
―イメージのからくり玉手箱

武藤政彦

小さな草花から大きな樹木まで,植物の茎はほとんど上を向いている。
茎はどうやって上を目指すのか — 茎の重力屈性研究の最前線。

ここに果てしなく続く迷路の回廊がある。おおむね闇に支配されたこの回廊の壁のところどころには、あたかも道しるべのようにイコンが掛けられている。一見とりとめのないこの回廊を、もし俯瞰(ふかん)的に眺めるなら、そこに二重らせんの構造を見いだすだろう。生命進化の長い歴史の中に刻み込まれたウイルスの痕跡。それは進化のベクトルに劇的に関与した道しるべとしての墓標でもある。様々な種の生物曲線は、多くの絶滅の上に進化があることを私たちに教える。生命の歴史はまた、おおいにメランコリーに満ちている。輝くイコンが点在する闇の回廊。その見取り図が解明されるのは、いったいいつだろうか。

闇と光を見つめること、それはまた画家の使命でもあった。光が当たることによって現れる物。そこで明らかにされる多くの事柄。画家たちによって、観察され解体され再構成された光と影のパズル。闇の中に浮かび上がる光は、精神的(宗教的)作用によって物質化され、発光体として普遍化される。

フェルメールの絵の中に描かれた、革張りの椅子に打たれた真鍮の鋲。それは私たちに、宗教的理念を超えた生命の輝きを直感させる。そこには宇宙がある。泡のように広がった宇宙。輝く星雲と星雲を隔てる暗黒星雲。暗黒の泡の中で営まれる高密度な反応と、その中に突如生まれる光。やがて光の粒は砕け散って地球に飛来し、太古の海辺の小さな泡の中で生命にその輝きを宿す。

光と闇を凝視した画家たちの直感は、世界にコントラスト(密度の落差)とグラデーション(融合)を与え、絵の具の層の中に時間を塗り込めることによって空間の見取り図を描いた。ミクロとマクロ、偶然と必然は闇の回廊の中で膨大な時間に抱かれ手をつなぐ。そして稲垣足穂が闇に輝く光を前に、「星も未来も遠い思い出に過ぎない」と言う時、この回廊に流れる時間のベクトルは渦を巻き始める。

と、ここに至って、とりとめのない話をしてしまったことに気づく。一見意味ありげなこれらの話も、一介の自動人形師の頭の中で作られたお話玉手箱に過ぎないのだ。私にとって輝く光の粒、それは小さなステージで歌う人形の歌姫の耳元に灯されたイヤリング。それで十分なのだ。

(左)天使が来る夜’95(部分)、(中央)摩天楼、(右)禁断の使者

(左)T'S BEEN ALONG LONG TIME、(右)天使が来る夜'95

(左)工房、(右)メランコリービィーナス(メカ部)

武藤政彦(むとう・まさひこ)

1956年神奈川県生まれ。創作美術学校研究科修了。人形や、オルゴール/オートマタ作品を制作。作品集に『ムットーニの不思議人形館』(工作舎)『ムットーニスモ』(牛若丸)など。

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