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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2020.07.01

缶詰のイワシのように詰め込まれるのは

新型コロナウイルス感染の様子も日本国内では一応の落ち着きを見せてきて、学校も職場も少しずつ日常を取り戻しつつあります。身近な実感としては電車の混み具合でしょうか。一車輌に数人から始まり、座席に一人置きに座るという期間がかなりありましたが、6月に入ってからは、立っている人も増えてきました。あまりにも空いていた時には、これでは鉄道会社が大変だろうと気になっていましたが、最近は、どこまで混むことになるのかなと考えるようになりました。

東京でのこれまでですと、通勤、通学の時間帯の電車は、周囲の人たちと体がピタリとついていた……。今思うとふしぎですが、それがあたりまえでした。以前は乗車率200%などということもあり、主要な駅には押し込み係がいたものです。さすがに最近は走る本数が増え、ダイヤも工夫されて混雑が緩和されてきましたが、それでも朝夕の混雑時には、まさに密着でした。

日常が戻れば同じことになる……かしら。普通の感覚では避けたいところです。ここで働き方、暮らし方が変わることになったらよいなと思います。

一極集中の弊害は以前から言われていたのに、なぜかどうしても分散型にはならずにきました。でもコロナ騒ぎで多くの人がテレワークを体験し、さまざまな工夫も生まれていますし、家賃などの経済面から見ても分散のメリットが見えてきました。空間と時間のゆとりに豊かさを見る機会になったのではないでしょうか。家族と一緒の時間、わずらわしさも含めて暮らしを実感しましたよね。

電車にギューギュー詰め込まれるなんて変だという、皆が関わる最も日常のあたりから、改革が起きそうな気がするのです。「人間は生きものである」という生命誌の基本が今こそ生かされる。楽観は許しませんが、かなり期待しています。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶