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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2020.11.16

何が現実で何が非現実

10月24日は歴史に残る日になりますね。国連が核兵器の保有と使用を全面的に禁じる核兵器禁止条約の発行がきまったのです。50ヶ国の批准が必要なところ、なかなか50ヶ国目が現われずにいたのですがホンジュラスが批准しました。日本だとよかったのですけれど、未だに核の傘などと言っているのが情けないことです。「理念は共有するが、現実味が非常に薄い」という政治家のコメントが出ていましたが、これが世間がよく分かった人の意見だという捉え方はそろそろ終えてもよい時が来ているのではないでしょうか。嬉しいことに今国連軍縮担当上級代表は日本女性、中満泉事務次長です。中満さんは、採択から3年で発効になるのは軍縮条約としてはよいペースであり、核兵器廃絶を求める国々の決意が表われていると語っています。そこには日本もこの意味を考えて批准の方向に動いて欲しいという期待がこめられているのは明らかです。

地球環境問題、COVID-19のパンデミックなど、私たち人類が地球上で暮らし続けたいと思ったら自然との向き合い方を考えなければならないことははっきりしています。エネルギーについては、以前は一部の人しか関心を持たなかった再生エネルギーが本格的に取り上げられ始めています。今後の流れはできたと言えるでしょう。できるかできないかはやる気になるかならないかできまるものだということを示す例です。人間は生きものという立場で自然の中での生き方を考えてきた「生命誌」としては手応えのある状況になったという気がします。

そのような生き方をするにあたって最もバカバカしいのが戦争でしょう。人類が生き続ける社会を次世代に渡そうとするなら核兵器ほど非現実的なものはないと言えます。非核について「現実味が非常に薄い」と言っている人は現実をよく見て、現実と非現実について考えて欲しいと思うのです。特定のイデオロギーや宗教などとは無縁で、ふつうに暮らすことを大切にしている一人として思うことです。面倒な生きものの中でも、特に面倒なのがヒトだとつくづく思います。権力などというおかしな力を振り回したがる仲間がいるからです。戦争だけでなく毎日のニュースにいい加減にして下さいと言いたくなる場面がしばしば登場しますね。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶