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研究館より

表現スタッフ日記

2021.04.01

脱プラしました。

 季刊生命誌105号、お手元にとどきましたでしょうか。プラスチックフィルムの袋をやめて、紙封筒にしました。実は制作費は跳ね上がっていますが、ここはどうしても乗り越えたいと決めました。

 生きものは関わりの中で生まれ、続いています。生きものの関わりというと、食物連鎖、食う食われるの関係があります。私たちは生きものを食べないでは生きていけません。生きものの一員として、生きものをいただくことに感謝をする気持ちは大切ですが、それを遠慮するのは意識過剰です。単細胞のプロチストだって、他の生きものを食べています。バクテリアだって他のバクテリアから栄養をえています。生きものでもないウイルスときたら宿主の細胞を壊さず増えられません。他の生きものを食べることを始めたおかげで、この多様な生きものの世界はあるのです。地球がバクテリアであふれてしまわないのは、それを壊すバクテリオファージ のおかげ、地面に枯れ木や枯葉が積もってしまわないのはリグニンやセルロースを分解するキノコのおかげ、動物の死体でうめつくされないのは、食欲旺盛な小動物や微生物のおかげです。食べて食べられる循環のなかで、生きものは生まれ、環境のバランスを保ちながら、時にはそこに適したものが選ばれながら続いてきました。

 ところが人間はその循環からはずれているのが問題です。熱帯雨林を焼き尽くし、農地をつくり、作物を飼料として家畜を育てます。お腹ではなく商品棚を満たすための限られた生きものを過剰に求め、本来多様であるはずの生きものの暮らしを奪っています。野生動物のもつウイルスが人に広がるのもそのひとつの答えでしょう。
 生きものが作りえない、人工物をたくさんつくっています。なかでもプラスチックは大きな問題になっています。海洋に流出して、海の生きものたちの生命をおびやかします。自然豊かな国を訪ね、真っ青な海を目指して砂浜を歩き出した足元に、ペットボトルやストローは言うまでもなく、紙おむつやタンポンのアプリケーターまでが散乱しているのに愕然としたことがあります。今後は不織布マスクもこれに加わるかもしれません。それぞれの国や地域には事情がありますが、私たちのしていることが引き起こした現状から目を背けることはできません。

 プラスチックを分解するバクテリアはすでにさまざまな場所で生まれているはずです。プランクトンが石油に、枯れ木が石炭になるだけの億年の時間のはてには、プラスチックも分解されて別な何かになるでしょう。原発から出る放射性廃棄物の保存期間の10万年とどちらが先か、いずれにせよ長い時間になりそうです。その時の地球の住人はかつての人類の遺物を歓迎するでしょうか。その時その世界で私たちの子孫は、恐竜が鳥に続いたように、新しい生き方を極めるだれかにつながっているでしょうか。私たちは今生きている生きもののひとつとして、どう生きるか、それにかかっているはずです。

 実際には難しいこともたくさんありますが、ほんの小さなことでも一歩踏み出しやってみることで、次につなげる力になると信じたいと思います。

平川美夏 (全館活動チーフ)

表現を通して生きものを考えるセクター