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研究館より

表現スタッフ日記

2023.09.01

生命誌を考える映画鑑賞会

今年の夏は、ほんとうに暑い日が続きましたが、お盆明け頃から聴かれる秋の虫の音に、和風名月も感じられホッとします。7月初旬のことでしたが、「ゆふいん文化・記録映画祭」に、記録映画「食草園が誘う昆虫と植物のかけひきの妙」上映のご招待を受けてご挨拶に伺いました。監督の立場から、映画祭パンフレットに寄稿した作品への思いを以下に転記します。

『日常という名の鏡』という題の著書があります。佐藤真監督によるドキュメンタリー映画論であり、また日常とは何かを考えさせてくれる論考が詰まった一冊です。深く共感するものです。映画をこしらえるということは、カメラを向けた世界の日常を映画という形で届ける仕事であり、同時に、映画体験とは、目の前のスクリーンに映し出された世界を共有する時間を過ごす人々が、「ああ、確かに、この世界には、こんな日常を生きる人々もいたんだなあ」と受留めていただく。その時初めて、映画は完結(成就)するのだと思っています。
本作に込めたものは生命誌研究館という場に流れる日常の空気です。館のメンバーにとっては当たり前の日常ですが、外から見たら、結構、珍しい日常だと、常々思っておりましたので、それをなんとか、映画をご覧になる方々の日常にも重なるような世界として描きたいと思った作品です。
生命誌研究館では、生きものを「科学」しています。科学で何かが「わかる」と、その周囲にもっと「わからない」世界があることがわかります。詰まるところ私たちには、わからないことを抱えたまま複雑な自然の中で「賢く生きる知恵」が必要なのです。
映画では「科学」だけでなく「能楽」も語られます。四季に恵まれた日本列島に固有の風土・文化に培われた物語を、身を挺して語り継ぐ芸能に、現代の私たちが学ぶべき、しかし、とても学びきれない豊穣な世界が詰まっていると、私は思っています。
今、私たちが見ている蝶や草花の世界と、昔、万葉歌人が眼にした自然との間に、さほど違いはないのではないでしょうか? そして、自然に向き合う私たちヒトの心も……そんなことを思いながら、この映画は、現代で、生きものについて考え、表現する現場にカメラを向け、そこに映ったものたちの等身大のメッセージを散りばめてつくりました。ご覧になる方々にとって、どこか面白いところがあることを願っています。(本作監督:村田英克)

ゆふいん映画祭では、上映当日の晩に行われた「ゆふいん神楽(百年続くとのこと)」にもお招きいただき、映画祭(今回が四半世紀:25回目とのこと)を運営されている地域の人々に暖かく迎え入れていただいた、たいそう感慨深い1日となりました。それぞれの地域に根を張った固有の文化を羨ましく思いました。

これまでもさまざまな地域で、その町に固有の文化として映画鑑賞の場づくりに励む皆さんに元気をいただきながら上映を続けて参りました。
9月には、16日(土)に、ここJT生命誌研究館にて、上映会を行うことになりました。館内の会議室での上映会ですので、なかなか劇場のような視聴環境は叶いませんが、その点ご容赦願います。映画とあわせて、実際に「食草園」もご覧いただけますので、関西圏の方々、どうぞこの機会にご来館ください。
詳細はこちら→「Ω食草園」20周年 映画「食草園が誘う昆虫と植物のかけひきの妙」鑑賞会&食草園ツアー

10月7日(土)には練馬区立大泉図書館で、上映会が開催されます。こちらは、研究館の食草園の写真展と、蝶や植物の図書紹介も企画いただいております。東京近郊の方は、ぜひご来場ください。こちらは事前申し込みが必要です。詳細はこちら→ 練馬区立大泉図書館


このような形で、みなさんの町でも自主上映会を行いませんか? ご関心のある方は、こちら→「お問い合わせフォーム」よりお問い合わせください。生命誌を考えるオリジナルの映像作品もこちら→「生命誌を考える映画鑑賞会」で紹介しています。