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研究館より

表現スタッフ日記

2023.11.15

柿がみのると

みなさん、柿はお好きですか?わたしは数年前から柿が気になり始め、この季節になると週に一度は産直へ柿を見に行きます。柿は品種が多く、日本でも1000ほどの品種があるそうです。この数年で食べた柿は、中谷早生、刀根早生、平核無、紀ノ川、太秋、次郎、伊豆、富有、太天、筆柿、江戸柿(順不同)、、、関西の身近なお店では出会える数に限りがあるようで、がんばってみても10種類ほど。出会ったことのない柿を見つけると「ここにいたか!」と嬉しくなります。昨年初めて出会ってびっくりしたのは「太天」という品種の柿。普段食べている柿の2〜3倍の大きさで、ずっしりとした重さに圧倒されました。流通の異なる地域にお住まいの方は、違った柿の顔ぶれに親しまれているのでしょうか。

柿という木の実一つに注目するだけで、そこからさまざまな世界が見えてきます。「渋」もその一つです。渋はタンニン。防腐・防水・防虫効果があり、建材や紙、綿等の染め物として利用されてきました。学生時代に行った木の実の利用についての聞き取り調査では、漁師の方が、漁網を染めて強くするために柿渋を使っていたと話していました。柿渋は独特な強い匂いがするため、港の近くではいつもその匂いが漂っていたそうです。詳しい方法はわかりませんでしたが、日本酒の製造時にも使用するとのこと。また、漬物に入れると味や色が良くなるという話もあります(これは実際にやってみたいものです)。柿は食べる以外の恵みも与えてくれてきたと思うと、感謝の念が募ります。

今年は全国的に人里へ出没するクマが多く、被害を伝えるニュースが後を絶ちません。ブナ科の堅果、どんぐりの実りの豊凶との相関が考えられており、量が十分でないと行動範囲を広げ移動するようです。雑木林や草地を生活の中で利用しなくなり、人の住むエリアと野生動物の暮らす野山の間に緩衝地帯が無くなってしまったことも要因の一つとして考えられています。人里では特に柿の木周辺での目撃が多く、被害防止のため柿の実の早期収穫や伐採を促す自治体もあります。高齢化、過疎化により、だれも収穫しなくなった柿の木たち。かつては、持ち主や周りの人の秋を豊かにしたかもしれない柿の木が、人の住むエリアにクマを呼び寄せ、被害をもたらす存在として切り倒される。誰もそうしたいわけではなくても、そうせざるを得ない状況が想像されます。

メジロが実を啄んでいる姿。タヌキの糞の中に見えるたくさんの柿の種。サルもイノシシも柿が好き。そしてヒトも柿が好き。柿が好きな生きものの一員として、すべての生きものが安全に柿を食べられる社会について、柿を食べながら考えたいと思います。