中村桂子のちょっと一言
2025.10.15
「手」の使い方を考える
朗読を楽しんでいらっしゃるグループの方から、『てのひらの宇宙――手から手へ紡ぐ言葉』という舞台で私が書いた『手』を使いたいというお申し出がありました。400字詰め原稿用紙一枚に、手について思うことを書くようにと言われて書いたものです。御一緒に永六輔、小川洋子、志村ふくみなどという名前が並んでいる本で、以前「劇団ひまわり」の山下晃彦さん(残念ながら一昨年亡くなられました)が舞台にして下さった時のことを思い出します。私が書いたのは、
チーターのように速くは走れない
タカのように鋭い爪もない
でも 私たちには手が与えられた
イチゴを育て ゆっくり味わうように
バラを咲かせ 窓辺を飾るように
母が編んだセーターを着て
道を這うアリをそっとつまんだ記憶
手から手へと いのちがつながる
けれども手は いのちを絶つこともある
森を壊し 川を埋め 戦いを起こし
やはり手は いのちを育むために使おう
時につないで ぬくもりを確かめ合いながら
というものです。山下さんの舞台では、黒ずくめの俳優さんたちが椅子に座って読んで下さったのですが、戦いのところで皆が足音を揃えて行進する様子が表現され、異様に怖かったのを覚えています。今もその音が聴こえます。
志村ふくみさんが機織りをなさりながら「手仕事をしなくなったら、人類は滅びるのではないかしら」とおっしゃっていることを知り、改めて手の大切さを思います。「手仕事」という言葉の中の手は人をつなぐものであり、掛け替えのないものですが、破壊や戦いで使う手はいずれ機械に取って替わられるものです。二足歩行で自由になった手は、人間の大事な特徴であり、これをどのように使うかは、どう生きるかということの象徴とも言えます。改めて自分の手(大分使い込んだ手です)を眺めながら思っています。
チーターのように速くは走れない
タカのように鋭い爪もない
でも 私たちには手が与えられた
イチゴを育て ゆっくり味わうように
バラを咲かせ 窓辺を飾るように
母が編んだセーターを着て
道を這うアリをそっとつまんだ記憶
手から手へと いのちがつながる
けれども手は いのちを絶つこともある
森を壊し 川を埋め 戦いを起こし
やはり手は いのちを育むために使おう
時につないで ぬくもりを確かめ合いながら
というものです。山下さんの舞台では、黒ずくめの俳優さんたちが椅子に座って読んで下さったのですが、戦いのところで皆が足音を揃えて行進する様子が表現され、異様に怖かったのを覚えています。今もその音が聴こえます。
志村ふくみさんが機織りをなさりながら「手仕事をしなくなったら、人類は滅びるのではないかしら」とおっしゃっていることを知り、改めて手の大切さを思います。「手仕事」という言葉の中の手は人をつなぐものであり、掛け替えのないものですが、破壊や戦いで使う手はいずれ機械に取って替わられるものです。二足歩行で自由になった手は、人間の大事な特徴であり、これをどのように使うかは、どう生きるかということの象徴とも言えます。改めて自分の手(大分使い込んだ手です)を眺めながら思っています。
中村桂子 (名誉館長)
名誉館長よりご挨拶