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研究館より

表現スタッフ日記

2025.11.18

ヤエヤマトガリナナフシその2〜卵

紅葉の季節になりました。徒歩10分も満たない家からBRHまでの通勤道ですが、沿道にはもみじを始め、紅葉をする様々な木々があり、通勤途中で思わずスマホを出してその風景を写真に収めます。ナナフシ(竹節虫)も紅葉の風景を眺めているのでしょうか。風景を見ていないとしても、きっと季節を感じ取っていると思います。

昨年の4月からヤエヤマトガリナナフシの飼育を始めています。前回の日記ではそのナナフシの交配と産卵について書きましたが、今回は卵のことについて書いてみたいと思います。ナナフシの卵と言えば、植物の種子に擬態していることはよく知られています。インターネット上で検索してみると確かに植物の種子と区別がつかないほど見事な擬態をしているだけでなく、その形は種によって違い、非常に多様であることが分かりました。下記のホームページでは日本産ナナフシの卵の写真をまとめてありますので、ぜひ一度見ていただければと思います。
https://micadina.web.fc2.com/mado/komado_nanahusi_tamago.html
(「ナナフシの森」サイトより)

ナナフシは木の枝や葉に擬態することで捕食者から身を守っています。ナナフシの卵が種子に擬態する理由も、主に外敵からの捕食を防ぐためであると考えられています。卵が植物の種子や糞のように見えることで、鳥などの捕食動物に卵だと認識されにくくなり、食べられるのを防ぐとされています。しかし、その一方、ナナフシの卵は厚い卵殻に覆われており、鳥に食べられたとしても、消化されずに糞と一緒に排泄されて孵化することができるという研究もあります。飛べないナナフシにとって、遠くまで分散できる良い戦略ではないでしょうか。ナナフシは、捕食者からの回避と効率的な散布という2つの生存戦略を卵に託しているようです。

ナナフシの卵は、外部の形だけではなく、内部を含めた構造も実に繊細で精巧にできています。今回は実体顕微鏡でヤエヤマトガリナナフシの卵を観察してみました(図1)。長さおよそ4mm、直径1.5 mmほどの円筒状で、側面の真中に卵門(Micropyle)という構造があります。その卵門を含めた領域は精孔板(Micropylar plate)とも言います。これは精子の入り口で、ここから精子が卵内に入り、受精が行われます。また、この部分には、胚の発生に必要な水分や空気の交換をする役割もしているそうです。

それから、何といってもその卵蓋(Operculum)の構造の精巧さに驚かされました(図1を参照)。蓋の外側表面に不思議な模様があり、周りには小さな突起がたくさん付いています(図1のAとG)。内側には白色の薄い膜が付いてあり、それは卵膜でしょうか(図1のF)。多くの昆虫の卵は、幼虫が孵化する時に、卵殻を破って出てきますが、ナナフシの卵にはこのような精巧な卵蓋があり、幼虫が孵化する際に、この蓋を押し開けて外に出てきます(図1のC)。この構造はナナフシが進化の過程で作るようなったと思われますが、それにしても見事というか、素晴らしいとしか言いようがありません。

卵蓋の外側の周りにある突起は何の役割をしているのでしょうか。ナナフシの種類によって、卵の卵蓋の外側の表面またはその付近に蓋帽(Capitulum)という小さなコブ状の突起構造があり、そこに含まれる物質がアリを誘引し、卵を巣に運ばせて分散させるための役割を果たしているそうです。ヤエヤマトガリナナフシの卵の卵蓋の外縁にある、それらの突起は蓋帽(Capitulum)に相当する構造でしょうか。調べてみましたが、はっきりとした答えは得られていないです。

それから、卵の両端のどちらかに不明な付着物がついていることが観察されました(図1のBとC)。全ての卵についているわけではありませんが、見ている限り、その付着物は、同じような形をしており、ゴミではないように思います。ご存知な方がいらっしゃいましたらぜひご教示いただければ嬉しく思います。


図1.ヤエヤマトガリナナフシの卵。AとB, 孵化前の卵;C〜E, 孵化後の卵殻(Capsule);F, 卵蓋(Operculum)(内側)と卵蓋の内側についている卵膜;G, 卵蓋(外側)。白い矢印:卵門(Micropyle)。青い矢印:不明な付着物。