中村桂子のちょっと一言
2026.03.03
強さと弱さ ―挑戦は大切です
何だか気になる言葉遣いです。強い国、やり抜く、押して押して……、働いて働いて……。
ゲノムという筋を一本通しながら多様な生き方を実践することで続いてきた生きものの世界を見ていますと、「本当の強さは弱さの中にある」ことがわかります。
進化の中で私たち人間が誕生した頃についての研究が進むにつれて、一つはっきりしたことは、人間独自の生き方の始まりは、“弱さ”ゆえと言ってもよいらしいということです。
具体的には、一人で頑張るのではなく、仲間と協力しての暮らしを選びました。一つは、食べものを皆で分かち合い、一緒に食べること、「共食」です。私が採ってきたり獲ってきたりしたものは私のものだと独占しないやさしい気持ちと、他の人が提供してくれるものを安心して口にする信頼感とがなければ、「共食」はできません。他の生きものにはない暮らし方です。
もう一つが子育てです。弱いのでヒト科の中では多産になった人間は、チンパンジーやゴリラではまだお乳を飲んでいる時期に離乳をしなければなりません。妹や弟が生まれてくるのですから。そのために周囲の人たちが、まだ小ちゃなお姉ちゃん、お兄ちゃんの面倒を見ることになります。そこでは子守歌が歌われ、それが言葉の誕生とつながっているとも言われます。とにかく、人間の暮らしは、皆が思いやりを持ち、協力し合うところから始まり、言葉を使って話し合い、お互いを理解するという道を辿りました。一人一人は弱い存在だったからこそ生まれた暮らし方が、今の私たちの日常になっています。お互いを大事にし合う家族や仲間と暮らす生き方です。
時代が進むにつれて社会が広がり、今や地球上のあらゆる場所に暮らす人々が仲間となりました。ここでも弱い存在として協力し合うのが、本来の人間の生き方でしょう(実際の歴史は試行錯誤であり、戦争もたくさんしましたけれど、生命誌で人間の本来の姿を知った今、その道を歩まないという選択をするのが素直な生き方だと思います)。
強いとか押しとか言わずに、弱さを認め合い、力を出し合って、静かに話し合っていくのが人間らしい道です。力を誇示するのは、美しい生き方とは思えません。過激な戦争や格差につながります。核とAIを持ちながらの戦争は、破滅の道でしかありませんし。
大事にしなければならないのは、“いのち”です。強さを求める方は、挑戦こそ大事だとおっしゃいます。その通りです。一人一人の命を大切にする社会をつくるという挑戦が、最もやりがいのある(最も難しいのかも知れない)挑戦です。
ゲノムという筋を一本通しながら多様な生き方を実践することで続いてきた生きものの世界を見ていますと、「本当の強さは弱さの中にある」ことがわかります。
進化の中で私たち人間が誕生した頃についての研究が進むにつれて、一つはっきりしたことは、人間独自の生き方の始まりは、“弱さ”ゆえと言ってもよいらしいということです。
具体的には、一人で頑張るのではなく、仲間と協力しての暮らしを選びました。一つは、食べものを皆で分かち合い、一緒に食べること、「共食」です。私が採ってきたり獲ってきたりしたものは私のものだと独占しないやさしい気持ちと、他の人が提供してくれるものを安心して口にする信頼感とがなければ、「共食」はできません。他の生きものにはない暮らし方です。
もう一つが子育てです。弱いのでヒト科の中では多産になった人間は、チンパンジーやゴリラではまだお乳を飲んでいる時期に離乳をしなければなりません。妹や弟が生まれてくるのですから。そのために周囲の人たちが、まだ小ちゃなお姉ちゃん、お兄ちゃんの面倒を見ることになります。そこでは子守歌が歌われ、それが言葉の誕生とつながっているとも言われます。とにかく、人間の暮らしは、皆が思いやりを持ち、協力し合うところから始まり、言葉を使って話し合い、お互いを理解するという道を辿りました。一人一人は弱い存在だったからこそ生まれた暮らし方が、今の私たちの日常になっています。お互いを大事にし合う家族や仲間と暮らす生き方です。
時代が進むにつれて社会が広がり、今や地球上のあらゆる場所に暮らす人々が仲間となりました。ここでも弱い存在として協力し合うのが、本来の人間の生き方でしょう(実際の歴史は試行錯誤であり、戦争もたくさんしましたけれど、生命誌で人間の本来の姿を知った今、その道を歩まないという選択をするのが素直な生き方だと思います)。
強いとか押しとか言わずに、弱さを認め合い、力を出し合って、静かに話し合っていくのが人間らしい道です。力を誇示するのは、美しい生き方とは思えません。過激な戦争や格差につながります。核とAIを持ちながらの戦争は、破滅の道でしかありませんし。
大事にしなければならないのは、“いのち”です。強さを求める方は、挑戦こそ大事だとおっしゃいます。その通りです。一人一人の命を大切にする社会をつくるという挑戦が、最もやりがいのある(最も難しいのかも知れない)挑戦です。
中村桂子 (名誉館長)
名誉館長よりご挨拶