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研究館より

ラボ日記

2022.02.01

へそまがり

15年以上経つのですが、カエルの研究をしていてふとしたアイデアが生まれました。それは、「増殖中の細胞は分化ができず、分化するためには増殖を止めなければならない」です。これまでは、「細胞は分化誘導シグナルを受けて特定の細胞へと分化する」と考えるのが常識でしたが、このアイデアでは「細胞分裂が止まれば周囲の環境に応じて適当な細胞へと分化するが、細胞分裂が止まらなければたとえ分化誘導シグナルに晒されようとも細胞は分化できない」という逆説的な考えです。しかし、カエルのように複雑な生きものでこのアイデアを検証するのは難しく、長いあいだ苦闘の日々を送っていましたが、プラナリアとの出会いで視界は広がりました。と、ここまでの話は、前回のラボ日記にも書きました。そして、2年半(プラナリアに注目してからは5年)の歳月を経てようやくこのアイデアを証明する論文が公開される運びとなりました。論文投稿から受理されるまでに4ヶ月ほどかかり、少し苦労したのですがひとまずはホッと一段落です。いまは、この論文の内容を違う角度からサポートする実験を行なっており、近いうちに論文として公開することを目指しています。

さて、これも先のラボ日記に書いたことですが、プラナリアの自切に関しての話です。プラナリアは自分自身を切断することで個体数を増やします。一般には無性生殖とよばれる増殖過程です。プラナリアは高い再生能力を有していますので、人為的に切断しても1週間程度で元通りの体になります。この人為的な切断と同様に「自らを切断し、次に再生を始める」のが自切だと当初わたしたちは思っていました。しかしどうも「切れ始める前に再生過程が始まっているのではないか」と疑わせる結果が出てきたのです。すなわち、「自切」が顕在化するより早い段階で再生過程が始まっており、一つの個体の中の極めて狭い領域で頭部と尾部が潜在的に隣接して再生されつつある結果として、頭部と尾部の境で二つにちぎれるのではないかということです。実験はこれからですので、まだこの考えが正しいのか、それともただの妄想に終わるのかは分かりませんが、個人的には魅力的な設問だと感じています。

ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、「教科書に載っているカエルの原腸形成モデルは間違えている」として全くあたらしいモデルをわたしたちは発表しています。冒頭の「増殖と分化」の話も同様に、どうも山本周五郎よろしく「曲軒」ゆえの当然の帰結なのか、人さまとは違うことを考える傾向が私には強いのかもしれないなあと、研究生活も終わりに差し掛かった今頃になって思っています。
 

橋本主税 (室長(〜2024/03))

所属: 形態形成研究室