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研究館より

ラボ日記

2023.08.16

外見と内面?

夏になると毎年のようにどこかで「左右でアゴのサイズが異なるクワガタムシ」のニュースを耳にします。体の部分ごとに性別が異なる「雌雄モザイク」と呼ばれる現象で,今年もすでに2例ほど報道されたようです。報道ではその珍しさに焦点が当てられがちですので,ここでは雌雄モザイクが出現する仕組みについて概略を記してみます。

私たち哺乳類の場合,胎児の途中でホルモンが全身に作用することで性が決まります。しかし,昆虫の場合は,性を決める遺伝子が細胞ごとに働くことで個別に決まるという,哺乳類目線からすると風変わりな仕組みを持ちます。そのため,稀ではあるものの,何らかの原因で一部の細胞だけ他と性が異なる状態が生じると(例:細胞分裂時に性染色体がうまく分配されなかった),一個体で雌雄両性の特徴を併せ持つ雌雄モザイク個体が出現するのです。原理的には様々な昆虫で雌雄モザイク個体が存在しうるのですが,学術論文とは異なり一般のニュースでは雌雄の見た目の違いがハッキリしているクワガタムシがよく取り上げられるようです。
 一口に雌雄モザイクと言っても,専門家が顕微鏡で観察してようやく気付くような体のごく一部だけ性が異なっているものから,綺麗に左右で雌雄が半々というものまで,モザイク度・パターンは色々です。ただし,これはあくまでも見た目,つまり体の表面の色や形に注目した話。見た目は左右で雌雄が半々な個体であれば,体の中も半々になっていそうな気がしますが本当でしょうか?少し昔の話ですが,7年ほど前の私の研究成果をご紹介します(Ugajin et al. 2016)。

前の勤務先で飼育されていたマルハナバチの巣から,外見上は左半身がオスで右半身がメスという個体が出現しました。慎重に解剖し,まずは生殖に関わる器官を確認したところ,完全な形の針(産卵管)と一対の卵巣が見付かりました。つまり,生殖器官はメスということになります。
 続いて,見た目による性別判定ができない脳・飛翔筋・腸・脂肪体を対象に,性を決める遺伝子のパターンを指標にオスかメスか調べました。脳は外見と同様に左半分がオス,右半分がメスとわかりました。ところが,飛翔筋,腸および脂肪体はほぼメスと判定されたのです。つまり,外見上は左右で雌雄が綺麗に分かれているにもかかわらず,体の内部は雌雄が半々の器官とメスだけの器官とが混在していたことになります。このようなややこしい状態がどのようにして生じるのか,明確な答えは持ち合わせていませんが,一定の法則性があるような気はしています。あまり長くなるのも良くありませんので,このくらいにし,ご興味を持たれた方は11月につくば市で開催される「ミツバチサミット2023」の中のシンポジウム「関西ミツバチ大学」へお越しいただければと思います(結局宣伝やったんかい!)。
 

宇賀神 篤 (研究員)

所属: 昆虫食性進化研究室

現在はアゲハチョウの脳の研究を進めています。これまでの研究はリサーチマップを参照。