1. トップ
  2. 語り合う
  3. 研究館より
  4. 無脊椎動物カドヘリンの構造から探る進化

研究館より

ラボ日記

2025.05.15

無脊椎動物カドヘリンの構造から探る進化

はじめまして、津山泰一です。2025年4月から「ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろう」ラボ (小田研究室) で奨励研究員として研究を始めました。よろしくお願いします。

小田研究室では無脊椎動物におけるカドヘリンというタンパク質の構造解析に取り組んでいます。カドヘリンは、動物の細胞膜に存在するタンパク質で、隣り合う細胞同士がしっかりとくっつくために働いています。カドヘリンには細胞外部分があり、この細胞外部分同士が接触し合うことで「接着」と呼ばれる構造を形成できるようになり、細胞の集まりである組織が物理的な力に強くなります。

さらに、カドヘリンは組織の安定性だけでなく、動物の体ができあがっていく発生過程にも重要な働きをしています。発生が進む中では、同じ種類の細胞が集まったり、違う種類の細胞が分かれたりして、いろいろな組織が形づくられていきます。このような細胞の振る舞いのためには、細胞同士がお互いを認識しあう必要があります。カドヘリンにはたくさんの種類があり、それぞれ細胞外部分のアミノ酸配列が異なり、それによって接触のしかたが違います。この違いによって、例えば、同じ種類のカドヘリンを持っている細胞同士が引き寄せ合ったり、違う種類のカドヘリンを持っている細胞たちは逆に離れていったりすることができるようになります。

このような動物の組織や形づくりにおける重要性から、カドヘリン細胞外部分がどのようにして接触するのか、タンパク質の構造の観点から理解するための研究が進められてきました。これまでの多くの研究は脊椎動物のカドヘリンに注目して進められ、いろいろな種類のカドヘリンがどのようにして接触するのかが明らかにされ、カドヘリンの種類によって接触のしかたが多様であることも少しずつわかってきています。

小田研究室では無脊椎動物におけるカドヘリンに注目しています。無脊椎動物のカドヘリンは、脊椎動物カドヘリンとはかなり異なるアミノ酸配列を持つことから、その構造や結合のしかたは脊椎動物のカドヘリンとは異なることが予想されます。実際に、小田研究室における過去の構造研究からも、無脊椎動物カドヘリンはこれまでに明らかにされてきたカドヘリンとは異なる構造である可能性が示されています。現在は、無脊椎動物カドヘリンの構造をさらに高分解能で示すことに加えて、細胞や組織により近い状態での接触のしかたを明らかにすることを目標に研究を進めています。このような研究からその構造だけでなく、カドヘリンの多様性がどのように進化してきたのか、カドヘリンの多様性と動物の形の多様性の間にどのような関係があるのか、などの問いへの理解を深めることを目指しています。

津山 泰一 (奨励研究員)

所属: 細胞・発生・進化研究室