ラボ日記
2025.07.15
動物たちの会話
ここJT生命誌研究館では、主に外部から講師の先生をお招きし、最新の研究成果や、発見に至るまでの背景など研究の舞台裏についてご講演していただく生命誌レクチャーが開催されています。先月6月のレクチャーは、アドベンチャーワールドから安達那央子さんにお越しいただき、ペンギンの繁殖プロジェクトやヒナのふ化についての講演を行っていただきました。20年以上にわたりペンギンの飼育に携わってこられた、まさにプロ中のプロによるご講演とあって、現場ならではの正確な知見や細やかな観察に基づくお話は、会場の誰もが引き込まれる内容でした。そして、表現セクターの阪内さんによる丁寧で落ち着いた司会進行により、小さなお子様から大人までが楽しめる、あっという間の講演でした。
このレクチャーでは多くの学びがありましたが、私が特に驚いたのは、親鳥とヒナとの“コミュニケーション”についてでした。人間の目から見れば、ペンギンの姿や形はどれもほぼ同じに見え、もし自分がペンギンのヒナだったら、群れの中からお父さんお母さんを発見することは、到底不可能に思えます。しかしペンギンの親鳥とヒナは、数多くの個体の中から、なんと鳴き声を聞き分け、お互いを識別しているというのです。
言葉を持たない動物たちは、家族や仲間と、どのようなコミュニケーションをとっているのだろう?そして、もし自分の意志や感情を、他者と共有しあう術を持つとすれば、どのようなやり方でそれを実現しているのだろうか?このような素朴な疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。最近注目されている動物言語学という新しい分野の研究では、シジュウカラなど一部の鳥類が、“言葉”を使って互いにコミュニケーションをとっていることが明らかにされています(東京大学の鈴木俊貴先生という若い先生がご活躍されています)。地球上の動物の中で、ヒトのみが言葉を使った高度なコミュニケーションを行っているのだ、とこれまで漠然と考えられてきたかもしれません。しかしもしかすると、さまざまな動物が独自の“言葉”を発達させ、互いに意思を伝え合う術を持っている可能性もあるのです。動物たちが会話を交わし、互いにコミュニケーションをとっている姿を想像するだけでも、生き物への見方は、大きく変わってくるのではないでしょうか。
さらに想像を膨らませてみると、ヒトと動物が会話をすることは可能なのでしょうか。ペットと暮らしている方の多くは、我が家の子と会話ができたらどんな感じだろう、と一度は想像されたことがあると思います。私も愛ネコに、「お腹は空いてへんかな?」「今日もべっぴんさんやね」などと無意識のうちに話しかけてしまっていることがあります。しかし実際には、ヒトの言葉や文法が持つ複雑な意味の体系を、動物が理解する能力は非常に限られていますので、現実的にはペットの動物がご主人の発する言葉の意味を完全に理解することは難しいでしょう。
ただし、ペットの気持ちや意思を正確に読み取り、より深く理解することは、現実的な可能性として十分に考えられます。「美味しいごはんがもらえて嬉しい」「一緒にいれて安心する」「身体の調子が悪いよ」このような感情の表現を理解するためには、声のトーンや表情の変化、尻尾の動きなどの要素を総合的に分析することが不可欠だと考えられます。AI技術の進歩とともに、共に暮らすペットの気持ちや意思を理解し、心を通わせることが可能になる日は、そう遠くはないかもしれません。

我が家の姫様です
このレクチャーでは多くの学びがありましたが、私が特に驚いたのは、親鳥とヒナとの“コミュニケーション”についてでした。人間の目から見れば、ペンギンの姿や形はどれもほぼ同じに見え、もし自分がペンギンのヒナだったら、群れの中からお父さんお母さんを発見することは、到底不可能に思えます。しかしペンギンの親鳥とヒナは、数多くの個体の中から、なんと鳴き声を聞き分け、お互いを識別しているというのです。
言葉を持たない動物たちは、家族や仲間と、どのようなコミュニケーションをとっているのだろう?そして、もし自分の意志や感情を、他者と共有しあう術を持つとすれば、どのようなやり方でそれを実現しているのだろうか?このような素朴な疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。最近注目されている動物言語学という新しい分野の研究では、シジュウカラなど一部の鳥類が、“言葉”を使って互いにコミュニケーションをとっていることが明らかにされています(東京大学の鈴木俊貴先生という若い先生がご活躍されています)。地球上の動物の中で、ヒトのみが言葉を使った高度なコミュニケーションを行っているのだ、とこれまで漠然と考えられてきたかもしれません。しかしもしかすると、さまざまな動物が独自の“言葉”を発達させ、互いに意思を伝え合う術を持っている可能性もあるのです。動物たちが会話を交わし、互いにコミュニケーションをとっている姿を想像するだけでも、生き物への見方は、大きく変わってくるのではないでしょうか。
さらに想像を膨らませてみると、ヒトと動物が会話をすることは可能なのでしょうか。ペットと暮らしている方の多くは、我が家の子と会話ができたらどんな感じだろう、と一度は想像されたことがあると思います。私も愛ネコに、「お腹は空いてへんかな?」「今日もべっぴんさんやね」などと無意識のうちに話しかけてしまっていることがあります。しかし実際には、ヒトの言葉や文法が持つ複雑な意味の体系を、動物が理解する能力は非常に限られていますので、現実的にはペットの動物がご主人の発する言葉の意味を完全に理解することは難しいでしょう。
ただし、ペットの気持ちや意思を正確に読み取り、より深く理解することは、現実的な可能性として十分に考えられます。「美味しいごはんがもらえて嬉しい」「一緒にいれて安心する」「身体の調子が悪いよ」このような感情の表現を理解するためには、声のトーンや表情の変化、尻尾の動きなどの要素を総合的に分析することが不可欠だと考えられます。AI技術の進歩とともに、共に暮らすペットの気持ちや意思を理解し、心を通わせることが可能になる日は、そう遠くはないかもしれません。

我が家の姫様です
黒田純平 (室長)
所属: 形態発生研究室
色々な生物の形態形成に興味を持っていますが、主にゼブラフィッシュを研究材料として、細胞がコラーゲンの構造体との相互作用を介して構築する身体の形態形成原理を解き明かそうと研究をしています。