ラボ日記
2025.10.01
フラットに解析
動物の体は、基本的には、受精卵に送り込まれた物質と自らが摂取した物質(と、それらを分解したり、そこから合成したりして作られた物質)だけでできている。体をどう作るかはゲノムに書かれており、そしてゲノムの情報は有限である。20世紀にはゲノムの全塩基配列を決めようというゲノムプロジェクトは途方もないものに思われたし、ゲノムから転写されたmRNAの全種類の塩基配列を決定しようとか、全遺伝子の発現を調べようなどといったゲノム全体を相手にしたプロジェクトが始まった時には、そんなアホなことをするのかと、笑い話でも聞いているかのような雰囲気も少なからずあった。しかし、現在では多くの種でゲノムの全塩基配列が決定されており、転写されたRNAの情報を取得する実験や解析の技術もかなり身近になってきた。そして、興味ある現象の徹底的な理解のために、ゲノム上の全遺伝子や、細胞や組織に含まれる全タンパク質を対象とした解析が求められるようになっている。それらの有限な因子がはたらいて体が機能しているのだから。
私たちのオオヒメグモの研究でもゲノムワイドな解析を取り入れている。最近は、ここ何年かかけて取得したsingle-cellのデータを機能解析へと繋げるために試行錯誤している。しかし、有限と言ってもゲノム上に存在する遺伝子は2−3万ある。そして生物学的な意味を明らかにする実験にはやはり時間がかかる。何らかのクライテリアで優先順位をつけて上位100まで解析すると決心しても、102番目が本当に重要な因子だったら?(これは運がなかっただけか?)、反対に、3個目で強力な制御因子を発見してしまっても地道に100まで解析するのか?と、心が揺れ動いたりもする。真に新しいものを発見したいと思っていても、哺乳類やショウジョウバエで必須なはたらきをもつものが含まれていれば、最優先にするか?などと誘惑されたりもする。ゲノムワイドな解析の良い点は、既知の情報に惑わされず、フラットにノンバイアスで全因子を対象にできるところにあるはずなのだが、研究者の匙加減や邪念の入る余地が全くないわけではない。それでも、やっぱりフラットに、とは思っている。
私たちのオオヒメグモの研究でもゲノムワイドな解析を取り入れている。最近は、ここ何年かかけて取得したsingle-cellのデータを機能解析へと繋げるために試行錯誤している。しかし、有限と言ってもゲノム上に存在する遺伝子は2−3万ある。そして生物学的な意味を明らかにする実験にはやはり時間がかかる。何らかのクライテリアで優先順位をつけて上位100まで解析すると決心しても、102番目が本当に重要な因子だったら?(これは運がなかっただけか?)、反対に、3個目で強力な制御因子を発見してしまっても地道に100まで解析するのか?と、心が揺れ動いたりもする。真に新しいものを発見したいと思っていても、哺乳類やショウジョウバエで必須なはたらきをもつものが含まれていれば、最優先にするか?などと誘惑されたりもする。ゲノムワイドな解析の良い点は、既知の情報に惑わされず、フラットにノンバイアスで全因子を対象にできるところにあるはずなのだが、研究者の匙加減や邪念の入る余地が全くないわけではない。それでも、やっぱりフラットに、とは思っている。
秋山-小田康子 (特別研究員)
所属: 細胞・発生・進化研究室
動物の初期発生に興味を持ち、オオヒメグモを用いて研究しています。