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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【BREAK 1】

1998.9.15 

 9月15日の「ちょっと一言」は、私の都合で先生に原稿をいただきに伺えませんでした。お詫びに本を紹介させていただきます。

 生命誌研究館では月に2回、研究会を行っています。先日の研究会で中村先生のお話に出てきた本を、最初にご紹介します。
 岩波書店から出ている「ゲノムから進化を考える」のシリーズです。第1巻は宮田隆先生の『DNAからみた生物の爆発的進化』。生き物の歴史の中では、カンブリア紀の大爆発のように多様な生き物がいっせいに出現することがありました。これまでは遺伝子の大きな変化が直ちに生物の爆発的な多様化になると捉えられていました。けれどもこの本を読んでいくと、その間には2億年くらいの時間的間隔があるらしいことがわかります。「この2億年の間に何が起きたのか。2億年の始まりの、遺伝子の爆発的な変化はなぜ起きたのか。このあたりの研究を今後注目しています。」と中村先生はおっしゃいます。
 DNAを遺伝子としてではなくゲノムとして捉えると、これまで見えなかった生き物の歴史が見えてくる。「ゲノムから進化を考える」シリーズ第2巻の『かたちの進化の設計図』(倉谷滋氏著)や第4巻の『心を生んだ脳の38億年』(藤田晢也氏著)からも、そんなことがわかります。


 また、ちょっと前になりますが、7月18日発売のオリーブという10代の女の子向けの雑誌に、中村先生が載っています。雑誌を見て、はるばる鳥取から生命誌研究館を訪ねてくれた女の子もいました。この雑誌でもいくつかの本を紹介しています。
 加古里子(かこ・さとし)氏の『人間』(福音館書店)は、一見子供向けの科学絵本のようですが、大人でも生命の歴史や文明の発達について充分味わえる本です。『生命の宝庫・熱帯雨林』(NHKライブラリー)は昨年飛行機事故で亡くなった生物学者、井上民二氏の遺稿です。「熱帯雨林を愛した彼の、生き物と地球に対する気持ちが、この本にはあふれています」と中村先生。「科学の本というより、エッセイのように書いた」という先生の著書『あなたの中のDNA』は、かな子ちゃんと先生の会話に引き込まれているうちに、いつの間にか、私たちの体を構成する一つ一つの細胞の中にあるDNAを実感できるから不思議です。


 サイエンティストライブラリー制作
「ちょっと一言」担当:三石祥子(98.9.15)

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