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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【サマースクール】

2004.9.1 

中村桂子館長
 毎夏二日間、サマースクールと称して外部の方20人ほどに研究館活動に参加してもらう催しをしています。年々少しずつ人気が高まり、申し込み人数も増えており、抽選をしているようです。
 例年そうなのですが、参加者は中学1年生から高校の理科の先生までバラエティに富んでいます。館のメンバーの方も、顧問から学生さんまで、皆熱心に対応してくれますのでこちらもバラエティ充分ですから、両方が組み合わさるとなかなか楽しい一群になります。
 二日間で研究館の研究の面白さと意味とをわかってもらい、しかも参加者それぞれのレベルに合うように考えるとなると準備はそれほど楽ではありませんが、皆年を追って上手になり、良いテーマが並びます。普段は学ぶ立場の学生さんが「ピペットを持つ時、最初は緊張してふるえるから、ちょっと間を置いて」などとなかなか適切なアドバイスをしたりしているのを見ると、なんてしっかりしているんだろうと見直す機会にもなります。サマースクールの私の楽しみは、外の方たちの日常の考えを聞くことです。今年は中学生、高校生、小学校や高校の先生と話をしていて、最近は“わからないこと”が嫌われているという様子が見えてきました。学校で教えてもらうことはすべて答があることで、それをできるだけきちんと頭の中に入れるのが大事。わからないことはないように・・・したがって自分で疑問を持つなどということはしないようにするという風潮だそうです。社会全体にそういう雰囲気があることは確かです。複雑なことに複雑なまま向き合って考えるなんてやだよねっていうことになっているのではないでしょうか。そう思っていたら、例のカンヌ映画祭で最年少主演男優賞受賞という柳楽優弥君主演の「誰も知らない」の是枝裕和監督は、この映画で「複雑な世界を複雑なまま表現すること」を考えたと言います。そして、「華氏911」について、「ムーア監督は尊敬するけれど、他者への想像力が欠如した下品な態度がブッシュ大統領の本質なのにそれと同じ態度で相手を揶揄しては自分もそこに入ってしまう。たとえブッシュ大統領に対してでもそんな態度はとらないというのが眞の“反ブッシュ”だろう」と語っていました。その通りだと思います。サマースクールからブッシュ大統領まで飛んでしまいましたが、「複雑さに向き合うこと」はこれからもテーマです。
 
 
 【中村桂子】


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