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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【「全面等価」ってよいと思いませんか?】

2004.10.15 

中村桂子館長
 男の子と女の子の違い。誰もが気づくことです。とくに、両方育ててみると、同じところも違うところも見えてくる。こんな体験をなさった方も多いと思います。たとえば、男の子は乗り物好き。女の子はお人形・・・これが生まれつきのものか文化的なものか。この論争は、今は脇に置きます。長い間子供たちの描く絵を研究していらっしゃる皆川二三江武蔵野大学名誉教授が興味深い指摘をしています。
 モチーフ、構図、色、形、線などあらゆる要素で男の子と女の子は異なっているのです。草原に女の子、花が満開で樹や家が並び、蝶や小鳥が飛び交い、天気は晴れ。お日様と雲。これが女の子の絵の典型だと皆川さんは言います。世界各地から集めた絵を分析した結果、どこも同じだそうです。それに対して、男の子は自分が好きな乗りものやアニメのヒーローなどを大きく描きます。あれもこれもと並べず、しかも動きがあるとのことです。確かにそうですね。女の子が描く絵は理想図。皆川さんはこれを「楽園図」と呼んでいます。男の子の好むのは闘争、すこし大きくなると武器も登場するそうです。楽園と闘争。ここに大きな分かれめがあるというわけです。女の子の絵の特徴のまとめに興味深い言葉がありました。「全面等価、中心がない」。確かに。先ほどあげたように、何でも皆並べてしまうので、個性がないと非難され、美術教師の間では、これを直すことが大きなテーマになっているとのことです。しかし皆川さんは、これが女の子の自分らしさなのだと言っています。「全面等価」いいじゃありませんか。これまでの歴史は闘争に次ぐ闘争でした。未だにそれが続いています。戦争、競争、力の争い。地図を開けば、もう未知の場所はないと言ってよい状態です。この地球で「全面等価」で暮らしてもよい時が来ているのではないでしょうか。全面等価の女の子の絵は、優美に価値を置き、楽天的になるとのこと。
 女性が社会で活躍するのは当然ですが、現在の強さに価値を置く、緊張感を求めるという中での価値で頑張るのではなく、「全面等価」を社会に持ち込むことにしたらどうでしょう。全面等価は個性がないのではなく、これを現実社会の価値にする努力をするところで、個性を発揮することになるのだと思います。
 
 
 【中村桂子】


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