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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【ヨーロッパに木造建築のビル?】

2008.10.1 

中村桂子館長
 先日、徳島を訪れた時、学校が近くの山の杉材でできていて、とても気持がよかったという話を書きました。でも、そこの山でも木材がなかなか売れず、木材の管理は大変だと伺いました。その後、ある企業の方が来館されて、森づくりをしているという話をなさったのですが、その時に、もっと木材を使わないと日本の森は管理ができず大変なので、木の家がもっと建つといいと思うとお話しましたら“木は伐ってはいけないんじゃないんですか”と言われてびっくりしました。
 そう言えば、ついこの間、私の家の近くのたくさんの樹木があるお宅が開発され、樹が伐られてしまい、とても残念な思いをしました。こういう時なぜ簡単に樹を伐ってしまうのだろうと思います。その土地に新しく家を建てて暮らす方だってそこに50年を経た樹がある方がよいだろうにと思うのです。樹のある状態で入手した後、家を建てるためにどうしても伐らなければならない樹を伐ればよいのに、なぜ全部伐り尽くしてしまうんだろう。真平にされた土地を眺めながら思いました。最近、身の回りでこうやって自然が無惨な姿にされてしまうことが多過ぎるものですから、ある日環境問題に目覚めた方が、樹は絶対に伐ってはいけないものと思いこんでしまうのでしょう。でも森林を育て、そこの樹を伐り出して木材にし建物を建てるのは大事なこと。ここを混同してはいけないでしょう。
 ところで、今、ヨーロッパで木造のビルが次々と建てられていると知ってびっくりしているところです。具体的にはイタリアとスウェーデン。昨日スウェーデンからいらした方に確かめましたらその通りと言われました。ローマやストックホルムという街を思い浮かべれば石。石の街でしょう。そこが木を使う。もちろん二酸化炭素を固定するという意識からです。もちろん耐火性などの問題を解決したうえでの決断です。木の街を作ればそこに森を作ったことになるわけです。それなのに木の文化の国である日本の建築家はコンクリートとガラスばかり使っているのはなぜでしょう。口では環境を大切にと言いながら地面を深く掘って水の流れを切り、その上にコンクリートの建物を建てているのでふしぎです。なんだかこの国は豊かな自然の中で培ってきた文化と知を忘れてしまっているような気がします。昨日もお台場での会議に参加し、先回行った時よりも更にたくさんの高層ビルの建ち並ぶ中を歩いていて、なんだか暗い気持になりました。

 【中村桂子】


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