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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【「遊ぶ」を実感しながら考えていきます】

2011.6.15 

中村桂子館長
  「遊ぶ」という言葉を巡って考えていこうときめた今年度。このコラムで遊ぶについて語りますと書いてきましたが、ふと考えたら、遊ぶとはなにかなどと大上段に構えては、遊ぶとは程遠くなることに気づきました。そこで、この数日、どんな風に過ごしたかをふり返ることにしました。
 7日には、細胞生物学が御専門の永田和宏先生がBRHに来て下さってお話をしました(季刊生命誌のトークですので内容はそちらを是非)。永田先生は、宮中歌会始詠進歌の選者をなさるなど歌人としても大活躍。研究と歌とで真剣勝負、私たちから見たら二倍の人生を歩んでいらっしゃるのですが、それができる基本には遊び心があるとおっしゃっていました。ゆとり、柔らかさなどでしょうか。すてきなお人柄で楽しい時間でした。
 10日には、絵本作家の加古里子さんのお宅でゆっくりお話しました。加古さんは、工学部出身のエンジニアで科学絵本のパイオニア。かわ、海、地球、宇宙など、自然についてのシリーズの最後にどうしても人間が書きたくなったのだけれど、生きものについて何も知らないのでとおっしゃって、1994年、開設間もないBRHを訪ねて下さって以来のおつき合いです。子どもたちの遊びの調査をまとめた「伝承遊び考」で菊池寛賞をとられた遊びの大家(もちろんこの遊びは本物の子どもとの遊びです)。これも時間を忘れる楽しい時でした。
 11日は、ホームページで紹介しました新宮晋さんの「田んぼのアトリエ」。東京を出る時は土砂降りで、どうなることかと思いましたが、三田(宝塚線の藍本)に着く頃には雨が止み、サワサワと風の吹く気持のよいお天気になっていました。山に囲まれた田んぼに風で静かに動く新宮さんの作品や風車で発電する小屋。それに「元気のぼり」と称し、子どもたちとお年寄りが思いきり色をつけ、模様を描いた鯉のぼりの変型がたくさん風に泳いでいました。これは被災地にもまわり、そこでまた皆さんに作っていただくのだそうです。50年以上続けていらした「風」とのおつき合いが今時宜を得てすばらしいメッセージになっていました。田んぼの中に響く太鼓を楽しんだ後、お話し合いをしました。ここでも基本をよく考えることと遊びとが一体化していました。
 次の日が名古屋での自然科学研究機構主宰の「宇宙と生命 ― 宇宙に仲間はいるのか」です。江上不二夫先生が「生命の起源」を考えるのが大好きでいらして、50年も前に「生命はどこから来たのだろう」と話していた時は「We are alone.」という感覚でしたが、今では地球型惑星が多数発見され「not alone」の感じが強くなってきました。さて、ではどこにどんな生きものがいるのだろう。天文・宇宙・生物・化学の専門家が真剣に議論した科学の場でしたが、これもちょっと遊び心がなければ入り込めない世界です。
 普段はこんなに詰めて外の方と御一緒することはしないのですが、今回、たまたまこんなことになり、でもどれもとても魅力的な遊び感覚がある方たちとの時間で、充実した疲れを感じています。

 【中村桂子】


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