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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【超高層ビル群が好きになれないわけ】

2011.7.15 

中村桂子館長
 大合唱になると、ちょっと待って欲しいと思う気持、今度は逆から見てみます。3月11日はいろいろな面でその日以前と以後を分けましたが、その一つに「地球に優しく」があります。これは企業広告の決まり文句でした。この言葉で示そうとしている姿勢は、CO2排出削減に努めますとか、生物多様性に関心を持ちますということ、つまり環境への配慮であり、とても大事なことです。でも、地球の持つとてつもなく大きな力を見せつけられた今、「地球に優しく」とは言えなくなったのでしょう。眼にしなくなりました。そもそも地球あっての私たちであり、そこに水や緑があるからこそ生きることができるのだという関係を忘れ、少し傲慢になっていたことに気づかされたわけです。ここで、自然の一部としての人間、生きものとしての人間を見つめるところから始めましょうという「生命誌」を一緒に考えて下さるとありがたい。これが本音です。
 そこで、生命誌からの発想の具体を一つ。今朝のことです。電車が新宿駅に近づくにつれて超高層ビル群が見えてきました。いつものことですが、なぜかこの景色が好きになれません。そして今朝、ふとその理由を思いつきました。日本で暮らしてきた私にとっての自然の象徴は、樹であり緑です。3階建て、つまり10mほどの建物ですと、周囲に樹を植えれば、しばらくすると建物はその中に入り込み、一つの風景になります。東京でも、住居区域は建物の高さを10m以下としているのはそのためでしょう。でも商業地域、オフィス街では樹と一体になった風景を求めるのは難しく、高層ビルになるわけです。でもそれが樹木とまったく無関係になり、そびえ立つようになったら、自然の中に暮らすという感覚は失なわれるでしょう。近くに森林公園を作り、それと調和する風景を考えたら10階建て、30mくらいでしょうか。古くからあるビルはこんな感じです。それは高層ビルを建設する技術がなかったからであり、今や新しい技術が開発され1000mにも挑戦できる時代になっているんだよと言われるでしょう。でも、ビルは建てるためにあるのではなく、暮らすためにあるのですから、そちらから考えたら、決して超高層は望ましいものではないと思うのです。東京の地価を考えなさい、人口を考えなさいと言われるでしょうが、それも、なぜ一極集中しなければいけないのかというところから考え直せるのではないでしょうか。
 自然の一部として生きるということを考えていると、この方向になります。エネルギーだけを自然・再生にするというのでなく全体を考える時が来ていると思うのです。

 【中村桂子】


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