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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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生物学における「理学」とは何か

2015年4月15日

小田 広樹

4月になって娘の新学期が始まったこともあり、理学部に憧れて大学に入ったときの自分の思いを思い出しました。それは、数学、物理が得意だった自分が何か生物学できるのではないかという期待感のようなものでしたが、同時に、大学四年間、数物系科目の勉強を怠ったことへの後悔もわき起こります。

幸運にも、大学院理学研究科の生物系に入ることができ、それ以来、20年以上、細胞生物学、発生生物学の研究に没頭して来ました。この期間、生物学の目覚ましい発展とも重なり、時々に新しい変化(材料や技術)を積極的に取り入れながら、自分の研究を発展させてきました。その姿勢は今も変わりませんが、この数年は大学時代の数物系科目の不勉強を悔やむ機会が格段に増えました。

原因はいくつかあります。1)定量的データがあらゆる場面で必要となってきた。2)大量のデータ(配列や画像など)を扱う必要が生じてきた。3)動的現象の仕組みを数式化して検証することが必要となってきた。など。

このような現実において、統計学の重要性や微分方程式活用の必要性、プログラミング技術の必要性を差し迫って感じています。

しかし、このような現実的な問題に日々悪戦苦闘しながら、本来「理学」とは何か、という問題がたびたび頭をよぎるようになりました。高校時代、シンプルな数式に集約される物理学の法則に感動し、難問を解くのに夢中になったことを思い出すからでしょうか。

生物学の難しさは、多様性と歴史性にあります。無数の種に無数の現象があり、それらが無数の異なる情報に支配されているのです。物理学のように例外を許さず全体を包むシンプルな法則が見出せるのか、多くの人が懐疑的かもしれません。ただ、生物学に「理学」としての価値を求めるならば、それを信じなければおもしろくないように思います。

話が大分飛んでしまいましたが、新学期を迎え、どの科目を履修しようかと悩んでいる学生の方も多いかと思います。生物学を志す方も、是非、数物系の科目をとって将来に備えていただきたいと思います。

[ ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 小田 広樹 ]

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