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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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ネオンサインと遺伝子発現

2017年10月2日

秋山-小田康子

幼い頃、駅前のネオンサインを見るのが好きでした。東京近郊の中程度の町でたまに家族で外食した帰り、バスを待つ間に、明るい光が点滅したり、長方形や菱形の模様ができたり、そして右から左に波が流れていったり、そんな様子を眺めていました。「なんで、模様が流れるの?」と父に聞いたことは覚えているけれど、答えがどうだったかは記憶していません。でも、その時だったのか、またもう少し後だったのか、電球が動いているわけではないということが分かりました。ただ電球はついたり消えたりしているだけ、それが動く模様を作っているのだ、と。そして時が流れ、今、細胞のシートにできる遺伝子発現のパターンに感動しています。細胞も遺伝子を発現したり、発現をやめたりしているだけ。それでもシートには体の構造のもとになる遺伝子発現のパターンが作られていきます。体節の縞縞を作る時には、波のように細胞シートを流れる遺伝子発現があることも分かってきました。そして細胞はすごいと思うのは、ネオンサインが全体を見ることができる人間の指示に従って模様を作るのとは違って、細胞はおそらく全体の状況を把握することも、次にどうするのかを考えることもなく(神経細胞もできていないのですから!)、細胞自身が持っているゲノムの情報と、なんらかの分子の非対称から始まる分子運動だけで模様を作りだしていくところです。さらにすごいのは、細胞はじっとしているわけではないことです。細胞は分裂して増殖し、細胞シートは形を変え、隣に違う細胞がやってきたり。それでも、そこに波が起こり、パターン作りが進んでいきます。どんな情報を細胞に持たせれば、動く場でのパターン形成が実現できるのか、そんなことを考えながら研究を進めています。

写真はオオヒメグモの4日目胚の頭部での3遺伝子の発現が作り出すパターン。体節の縞縞(青)と神経細胞を作る細胞(赤)、正中線(緑)が染め出されている。

[ ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 秋山-小田康子 ]

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