1. トップ
  2. 語り合う
  3. 【ニューヨークの正月とサイエンス】

表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【ニューヨークの正月とサイエンス】

2000年1月15日

 年末年始の休みに、ニューヨークに行ってきました。
 といっても、別にミレニアムをタイムズスクエアで迎えようと張り切って出かけたわけではなく、妻の伯父夫婦が住んでいるので一度会いに行こうという計画が、たまたま2000年の正月と重なっただけでした。しかも、2歳4ヶ月の娘を連れての旅で、美術館や博物館はほとんど見れなかったのですが、それでもお祭り気分でいっぱいのマンハッタンを歩いたり、セントラルパークの動物園(小さいけれど良く考えて作られていてお勧めです)に出かけたりと、十分に楽しんできました。
 それに加え、今回は、サイエンスについてもちょっとだけ見聞を広めてきました。
 実は、私の伯父というのは、ロックフェラー大学の神経生理学の名誉教授で(浅沼廣と言います)、30代で渡米して以来ずっと向こうで生活してきた人なのです。私は親戚とは言え、遠くアメリカに住んでいるということで、これまではあまり話を聞く機会がありませんでしたが、今回は、毎晩酒を飲みながら、アメリカでの研究生活についてたっぷりと話を聞かせてもらいました。大学が提供するのはオフィスと秘書だけで、自分を含む研究室のメンバーの給料、そして実験のための費用をカバーするために、毎年の研究費を取るのがいかに大変か、などなど。もともとが何でもストレートに言う人なので、ことあるごとに出てくるのが、日本の大学教授たちは楽をしている、というコメントでした。
 もう一人、旅行中に会ったのは、ニューヨークの郊外、ロングアイランドにあるコールドスプリングハーバー研究所に勤める平野達也氏でした。平野氏とは京大の理学部の同級生でしたが、彼が大学院を出てアメリカに留学して以来、一度だけ手紙のやり取りをしただけで、久しぶりの再会。彼は、カリフォルニア大学での研究を終えた後、独立して、今の研究所で研究グループを立ち上げ、染色体構造の研究を進めています。研究所の敷地を散歩しながら話題になったのは、やはり、アメリカで研究費を取ることの大変さ、そして、大学院のことでした。彼が最初に留学したカリフォルニア大学サンフランシスコ校の医学部では、大学院の教育が非常に充実していて、単に実験ができるようになるといったこと以上に、卒業後に自立して研究を進めるためのトレーニングがしっかりとなされている、といった話を聞かせてもらいました。決して大きくはないけれど、こぎれいに整理された研究室では、研究の話も聞かせてもらい、彼の研究グループがここ数年、染色体構造の研究で世界をリードする立場にいることも知りました。
 こうして、実際にアメリカで研究をしている人達から直接話を聞くことができて、改めて日本とアメリカの違いを認識させられたように思います。生命誌研究館でも大阪大学の連携大学院として大学院生が研究しているわけで、彼らに対してまだまだ研究館としてやるべきことがあるのではないか、京大や東大などでは大学院生の定員が増え過ぎていて、教官はまともに学生の指導ができないという話をよく聞くが、そんなことで日本の研究のレベルは本当に上がるのか、などなど。観光以外にも、実にいろいろなことを考えさせられた旅でした。
[加藤和人]

表現スタッフ日記最新号へ