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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【季節を通して蟲を愛づる】

2015年9月15日

松田 直樹

はじめまして、今年の4月から展示ガイドスタッフをしている松田直樹と申します。館内の案内にも少しずつ慣れてきて、皆様からの質問の鋭さに驚かされながら刺激的な経験をさせていただいています。

私は普段は大学で昆虫の季節への適応の仕方を研究しています。多くの生物は日の長さを感知して季節の変化に反応しており、これを光周性といいます。昆虫も例外ではなく、日本のような温帯に生息する昆虫の多くは冬の寒さに弱いため、日が短くなると低温や絶食に耐えられる休眠という状態になって冬を越します。私が対象としているアブラムシ(食卓に現れる黒いのではなく、植物に付くほうです)の場合、春から夏にかけて日が長い間は1個体だけで子を産む単為生殖を行いますが、秋になって日が短くなると雄と雌を産んで、それらが交尾して産まれた卵が休眠して冬を越すという、大変複雑な生活環を持っています。その一方で、休眠を終えて孵化した個体から数十日間は、日が短い条件で飼育しても雄と雌を産まないことが知られています。単為生殖によって産まれる個体は全てクローンであり、同じ遺伝子を持つ個体が同じ環境に対して異なる反応を示すという興味深い現象です。アブラムシは速いときには産まれて1週間ほどで子を産みますが、どうやって世代を越えて時間を刻んでいるのでしょうか。私はこの背景にある機構を探っています。余談ですが、アブラムシは初めて光周性が発見された動物でもあります。昆虫の季節適応に興味を持って以来、季節の移ろいに応じて野外で見られる昆虫が変わっていくのを強く感じられるようになりました。アブラムシだけでなく、身近な様々な昆虫を観察し、その生き方に思いを巡らしています。生命誌風にいうと、私も「蟲愛づる人」です。

生命誌研究館にはナナフシが1年中元気に暮らしていますし、食草園にはチョウだけでなく様々な昆虫がやってきます。身近な昆虫にもこんなに面白いことがあるということを皆様に伝えるのが私の喜びですが、虫のことを話すのに熱中して一方的に語るのではなく、双方向的な対話を心がけたいと思います。また昆虫に限らず動物の行動や生態に興味があるので、そのような話題も大歓迎です。生きものの不思議を一緒に考えてみませんか。どうぞよろしくお願いします。

[ 松田 直樹 ]

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