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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2020.04.01

一年生の気持で ― 科学を超えるについて

4月1日。さまざまな一年生の誕生です。自分の背中より大きいピッカピカのランドセルを背負った小学校一年生の新鮮さには敵いませんが、私も新しいお役目の一年生、ちょっと緊張しながらこれからどんな毎日を送ろうかなと考えているところです。

〈ちょっと一言〉はこれまで通り続けることになりましたので、よろしくお願いいたします。

まず、何を書こうかなですね。これまでは日常のことだったり、時に生命誌について思うことだったりと、筆をとりあげた時にふと浮んでくる事柄を書いてきました。これからも恐らくそんな風になると思うのですが、実は今、眞剣に考えていることがあり、それを少しまとめて書いてみたいなあとも思っています。

30年ほど前、「生命誌の扉をひらく ― 科学に拠って科学を超える」(哲学書房)を書きました。「生命誌」という知をどのようにつくっていくかもまったくわかっておらず手探りでしたけれど、それだけに思いは広がり、「科学を超える」ことが大事だと思っていました。その後、仲間たちとの活動で実際に創ってきた知は、おかげさまで他にはない新しいものにはなりましたが、着実な活動をするには「科学」を尊重する必要がありました。DNA、ゲノム、細胞、発生、進化、生態系などどれも大事です。そこで、「超える」についてまとめて考えるところまで行きませんでした。

でも、急速に「現代文明の崩壊」が現実味を帯びている昨今、「真理」の探求を語る科学を超えて、「現実」の自然から見えてくるものを基盤に置く知への転換が必要だと強く思うようになりました。館長職を離れ、少し自由度が高くなりましたので、「科学に拠る」ところは変えないとしても、「科学を超える」道を少しづつ探してみたい、再び手探りを始めたいと思うのです。どこまで考えられるかはわかりませんが、できるだけ「生きものっぽい」柔かな知を創りたいと思っています。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶