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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2021.07.15

ちょっと寄り道──人工芝

先回の「水素社会」への疑問に投稿で一つのお答えをいただきました。ありがとうございます。やはり難しいのだろうなと感じています。急がずに考えます。

今回、思いがけない事実を教えられましたので、ちょっと寄り道をします。

ゴミ問題を考える中で海洋プラスチックが話題になっています。廃棄物は社会・生活のさまざまな側面を反映するものであり、これからの重要な課題です。温暖化ガスももちろんその一つですが、最近話題になっているものがいくつかあります。たとえば食品ロスと呼ばれ食べられるのに棄てられてしまう食品が年間600トンとか、役目を終えたロケットや宇宙船が宇宙ゴミとなり、小さなものを入れると50万個もあるとか、広範囲にわたります。その一つが、水中のマイクロプラスチックです。

マイクロプラスチックとは、直径5㎜未満のプラスチック断片や粒子をさし、その元はさまざまです。思いがけない事実とは、我が国の河川や港湾で調べられたマイクロプラスチックの20%が人工芝だったということです。

今から半世紀ほど前、環境問題が話題になり始めて周囲から緑が消えていくのが問題だとなった時に、壁を緑に塗りましょうという活動がありました。もちろん真っ赤に塗られた壁より落ち着くかもしれませんが、ちょっと違いますよね。

校庭に人工芝を敷こうという話は、それよりは少しましです。私が小学生の頃の校庭は土でしたが、だんだんコンクリートが増えていきました。泥だらけになる土か、転ぶと痛いコンクリートか。サッカーが盛んになり、きれいな芝の上でボールを蹴る姿がカッコよく走りやすそうだと皆が思うようになりました。校庭も芝にしたらすばらしかろう。そんな考え方が出て、実際に試みた学校もあります。でも芝はヨーロッパの草で、日本の風土には合いませんからきれいな緑にしておこうと思ったら手入れが大変です。しかもゴルフ場の例でわかるように、肥料や薬をまかなければ美しい芝は保てません。問題山積です。そこで思いついたのが人工芝です。生きものの眼で考えれば、日本の草が生える原っぱにすればよいはずで、私はそれが答えだと思うのですが、現代社会では人工芝が選ばれます。子どもたちのために人工芝をという社会貢献運動も盛んになりました。けれどもその破片が水路から流出し、マイクロプラスチックの20%を占めると聞くと、やはり答えは原っぱではありませんかと思います。

私が子供の頃遊んだ原っぱを思い起こさせてくれる好きなところは、東京立川にある昭和記念公園です。生きものの本質を理解していらした昭和天皇を記念しようとしたらこうなったのでしょう。広い原っぱで遊ぶ子どもたちはとても可愛いです。寄り道ですが、大事な道だったと思います。

※2021/7/16 内容を一部訂正しました

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶