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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.01.18

デジタル化は大丈夫でしょうか

2022年の春が明けました。今年もよろしくお願いいたします。1月1日に生まれたものですから、この日はお正月というだけでなく自身にとっての新しい年という感じのする日になります。とはいえ、「さあ今年はやるぞ!」という気分は卒業しています。やるぞ!は間違いなく年末の反省につながることが分かっていますので。

お天気がよく窓からの陽ざしでポカポカの部屋で、ゆっくり音楽を楽しもうかなとCDを探していましたら、『BIO WALZER』というタイトルのついたお手製のCDが出てきました。『小鳩のワルツ』『南国のバラ』『トンボ・ポルカ』『オーストリアの村つばめ』『野バラ』『ウィーンの森の物語』『すみれの花咲くころ』『まつゆき草』『蛾』『くるまば草序曲』『シトロンの花咲くところ』。ほとんどがシュトラウス一家の作品です。このCD誰が作ってくれたのだったかしら。何でも忘れてしまう質で覚えていないのですが、BRHでの音楽会のために苦心して集めたものであることは確かです。今年の聞き初めはこれと決めました。

音楽を聴きながら傍らの新聞に眼をやりましたら、「仮想現実空間」という大きな字が見えました。別々の場所にいる人の分身が、「メタバース」と名付けられた3Dコンピュータグラフィックスの仮想空間で出会うらしいですね。大市場規模の展開が期待されるとありました。「人間は生きもの」という当たりまえのことを考えることがますます大事になっているのを感じます。ここ数年、新型コロナウイルスや異常気象が話題で、環境との関わりで「人間は生きもの」を考える流れができてきました。それも重要な課題ですが、それよりもっと面倒なのは、人間そのものが生きものの感覚を失っていくことではないでしょうか。

以前、毛利衛さんと話した時に、宇宙飛行士の訓練の中で最重要課題と言える緊急事態への対応の話が興味深かったのを思い出します。通常はシミュレーションでの訓練なのですが、時々、ジェット機でやるのだそうです。「その時の緊張感ったらないですよ」。毛利さん真剣な顔でした。本当に命が関わっているのですからシミュレーションとは訳が違います。

今年はデジタル社会へ向けての動きが活発になり、そんなことをやると人間がダメになりませんかと問うことなしに、劣化の道を進むようなことをどんどんやるのではないかと危惧しています。生きものはデジタルではありませんから。

ゆったりした音楽を聴きながらあまり楽しくないことを考えてしまいましたが、ダメにならない道を探すのは面白いはずです。今年はこれも考えたいと思っています。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶