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研究館より

ラボ日記

2022.04.01

津田梅子について

最近ちょっと気になる人は津田梅子です。東京大学出版会から出版された本(古川安著「津田梅子 科学への道、大学への夢」)を読んだすぐ後にテレビドラマ(テレビ朝日)が放映され、さらにJFLYのメーリングリスト(日本のショウジョウバエ研究者のメーリングリスト)で先輩が紹介していた論文を読み、と短期間に接する機会が複数ありました。今日は私なりの紹介です。

梅子が明治時代のはじめに日本初の女性留学生のひとりとしてアメリカに渡り、後に女子英学塾(津田塾大学)を開いたことは多くの方がご存知なのではと思います。もっとも、渡米したのはあんなに幼い頃であったのかとドラマで映像として見ると改めて胸に迫るものがありましたし、当時の日本社会への憤りや女性の教育のためにあれ程奔走したことなどは、これまで想像したこともなかったのですが。そしてドラマではほとんど紹介されませんでしたが(顕微鏡を覗いている場面がわずかにありましたが)、梅子はショウジョウバエの遺伝学研究の創始者トーマス・ハント・モーガンのもとで研究したことがあるのです。このことを私は以前、何かの折に知ったものの詳細は分からずにいましたが、本には2度目の留学のことやその時に生物学を学んだこと、そして研究を続けずに帰国したことなどが書かれています。論文は2度目の留学時に(モーガンがショウジョウバエの研究を始める前に)行われたカエルの発生の研究に関するもので、モーガンと梅子の共著となっています。(The Orientation of Frog’s Egg. Quarterly Journal of Microscopical Science, series 139. pp. 373-405 (1894).)内容は若い卵割期の卵の向き(卵とそこから形づくられる体の向きとの関係)に関してで、私の研究とも関連があります。梅子が執筆した第2章では、卵の色素・卵割溝・原口の位置関係(関係があるのかないのか)について、多数の卵の観察結果とその解釈が丁寧に記載されています。遺伝子もDNAも分かっておらず、実験手法も機器も整っていない時代に、熱心に観察したことが分かる内容で、また、論文はこんな風に書くのだなと改めて感じさせるような実直な文章でした。ショウジョウバエつながりで勝手に縁を感じつつ、梅子のパワーをもっと見習わないと、と思っています。
 

動物の初期発生に興味を持ち、オオヒメグモを用いて研究しています。